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デミテルは今日もダメだった【38】

おわび
前回の次回予告
第三十八復讐教訓「恩は売っとくと便利だったり厄介だったり」は、
題名と話を間違えておりました。もうしわけございません。
この題名の話が出るのはもうちょっと後です。


 「・・・あれか?」
「へい。あの女でさ。」
「あんな貧弱そうな女に指折られたのかお前?」
「見くびっちゃダメです。ラーナーズの奴はオタマでやられたそうです。」
「ふん・・・まあいい。どんなに腕が立とうが・・・・・・こいつで一発だ。」


『本当の』第三十八復讐教訓「深夜のトイレには絶対見えない何かがいるに違いないと思う」


茫々と茂る木々。ざわめく葉音。どれほど明るい日が射そうとも、やはり『森』というのは入ると不安になるものだ。

そんな名も無き森を、デミテル達は歩いていた。モリスン邸を出たのは今から
十三時間程前の深夜十一時。

モリスン邸からの逃亡を切り出したのはデミテル・・・ではなく、ジャミルだ
った。デミテルときたら『明日も清々しい朝を迎えて労働に励むぞ♪アハハハ♪』
などと言いながら、使用人の部屋で寝ようとしたため、ジャミルが思い切り後頭部に蹴りを入れていた。

が、問題はまだ解決しなかった。その、モリスン夫人等が寝入った深夜十一時
に屋敷から脱出しようとジャミルが全員をけしかけたのだが、


※昨晩の会話
『ほらアンタ達!あの女寝たみたいよ!早く脱出してクレスども追うわよ!ほら!起きなさい小娘!』
『むにゃむにゃ・・・・・・ジャミンコぉ・・・・・・ベッドであったかいねぇ・・・♪』
『何ベッドで寝入る喜びに目覚めてんのよアンタは!?ほらデカブツ!アンタも起きなさい!』
『よ、吉男!?』
『誰が吉男だぁ!?このファンタジー世界で一体なんちゅードリームを見てんだテメーは!?つーか吉男なんて名前のインコ滅多にいねーよ!どんな間違いよ!デミテルぅ!どうにかしなさい!』
『イヤダァ!私はここで地上最強のスーパー使用人になるって決めたんだぁ!何人にもその夢を妨げることはできんぞぉ!スパーキング!!』
『何でわざわざ最強の使用人にならないといけねーんだ!?ただの使用人でいいだろうが!!いい加減にしろテメーら!!完全に一般人の生活に充実感と満足感を抱いてんじゃねーか!!復讐の日々に渇望を抱けぇ!』


そんな会話をしながら、ジャミルは全員の頭をつつき続け、何とか外に連れ出し
た。デミテルは最初は『やめろぉ!私の帰る所はあそこだぁ!スパーキング!』
などと喚いていたが(『スパーキングてんで関係ねーだろ!テメーをストッキン
グで窒息死させてやろうか!?』とジャミルが叫んだ)、二、三時間も立つと我
に帰っていた。

この森に入る、十分程前のこと。一人の、乱れた白髪頭の老人が森の入り口前
で彼らを引き止めた。

「この森は最近人さらいが増えとる。特に女子供を狙ってのぉ。気ぃつけい。」

 老人は皺くちゃの顔をしながら言った。

「ありがとなんだなおじいさん。おじいさんもメタボリックに気をつけるんだな。」
「ありがとおじいちゃぁん♪おじいちゃんも年金問題に気をつけてねぇ♪」
「忠告感謝する。アンタもオレオレ詐欺に気をつけろ。」
「何でアンタ達さっきから全部現実的な問題の忠告ばっかしてんのよ。つーかオレオレ詐欺は正直古いわよ。今は架空請求って言うの。」
「何だとぉぉぉぉ!?」
「びっくりしすぎだぁ!時事を知れ時事を!!」

それから一時間後、現代に至る。今のところ人さらいどころかウサギ一匹現れ
てはいない。

デミテルは草木で隠れた空を見上げながら言った。

「人さらいか・・・いっそのことそこのうるさいガキを連れ去って行って欲し
いものだ。」
「やだよぉ!例え生き霊になってもデミテル様と一緒にいるもん!」
「それは一緒にいるとは言わん。取り憑くと言うんだ。」

森の中を歩みながら、デミテルは淡々と指摘した。モリスン邸ではずいぶんと
性格が丸くなっていた彼だが、我に帰った今では元の淡白な性格に戻ったようだ
った。

ジャミルはデミテルの肩に羽を休めながら言った。

「ま、もしアタシが誘拐でもされたらアンタ達相当困るに違いないわね。ここ
で唯一ツッコミが出来るのは・・・」
「安心しろ。インコを誘拐する馬鹿はそういない。狩猟ならあるだろうが。」
「いやいや。インコを狩猟するっていうのもあんまり聞かない・・・」
「っていうかジャミルってメスだったんだな?」
「ちょっと待ちなさい。いくら何でも・・・」
「そんなことはどうでもいいだろうフトソン。調理すれば雄でも雌でも一緒だ。」
「あっ、それもそうなんだな。」
「納得してんじゃねーよ!」

ジャミルがピーピー喚いている中、ただ一人、会話に参加していない者がいた。リミィだ。

彼女は木々生い茂る茂みをじっと見つめていた。というのも、何かがこちらを
見ている気がしてたまらなかったからだ。

そのとき、茂みの葉ががガサリと動いた。リミィは素っ頓狂な声をあげた。

「デミテル様今何かいたぁ!!」
「ん?アレだろう。野ウサギ的な何かだろ。」
「でも人間の頭だったよぉ?」
「じゃあ人間の頭をしたウサギだ。」
「でも頭に耳なかったよぉ?それにちょっと禿げてたよぉ?」
「じゃあ頭に耳がない禿げたオッサンのウサギだ。」
「アンタどんだけ頑なに野ウサギの可能性を信じ続けてんのよ。頭に耳がない
時点で確実にウサギじゃないわよ。」

ジャミルはリミィが指差す茂みを見つめながら言った。デミテルは本当にどう
でもよさそうだ。

「ウサギよりも、まずこのインコに対する議論の方が大事だろうが。何の話を
していたんだったか?」
「インコは鳥肉のレモン煮にしても美味しいか否か、ってことを議論してたん
だな。」
「そうだそうだ。というか前から疑問だったんだが、何故レモン煮なのに実質
は唐揚げなんだ?鳥肉をレモンで煮たものをレモン煮と呼ぶんじゃないのか?こ
れでは鳥肉のレモン揚げ・・・」
「そんな議論は小学校の給食の時間にでも展開してなさい!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


深夜。森は静かに息を潜め、眠りについている。月が森を妖しく照らし、夜の
光で覆っている。

デミテル達は森の少し開けたところで、静かに横になっていた。フトソンにい
たっては寝返りのせいか俯せになってしまっていて、かれこれ三時間は呼吸が停
止してしまっているが、恐らく問題はないはずだ。多分。

そんな夜中に、一人の少女が目を覚ます。リミィだ。

リミィは眠気眼のまま、あおむけになっているデミテルの腰を指でツンツンつついた。

「デミテル様ぁ。オシッコぉ。」
「・・・私はオシッコじゃない。ハーフエルフだ。」
「・・・デミテル様ぁ。オシッコに行きたぁい。一緒に来てよぉ。」
「・・・一人で行け。」
「・・・ヤダ。コワイ。サミシイ。」
「・・・知らん。一人で乗り切れ。もしくは何か歌でも歌いながら行け。とな
りのト○ロの歌とかドラ○もんの歌とか。この前夜中に通りすがった旅人なんて
アレだ。エヴァンゲ○オンの歌を大声で独唱しながら馬を走らせてただろうが。
そういう感じでいけ。以上。」

目をつぶりながら、デミテルはそれだけ言うと体をリミィのいない方へ顔を向けてしまった。リミィは少し頬を膨らませたが、やがて・・・

「♪ざーんーこーくな天使のテーゼぇ♪まーどーべーから空へ飛びだーすぅ♪」
「何でよりによってエヴァンゲ○オンの歌をチョイスするんだ貴様はぁ!?子供は子供らしくドラ○もんとか鉄腕ア○ム的なものを歌ええ!!」
「鉄腕ア○ムは古いと思うよぉ。デミテル様ぁ?」

予想外の選曲に跳び起きたデミテルに、リミィはニコリと笑って言った。デミ
テルはギリギリと歯軋りした。


五分後、デミテルはシャッターを下ろしてしまいたい目をひんむき、リミィと
共に少し離れた木陰に移動した。リミィは久しぶりにデミテルと二人きりで歩く
のでずいぶんと楽しそうだ。

数分後、適当な木陰を見つけた。デミテルはリミィから背を向け、適当な木に
もたれた。そして欠伸混じりに言った。

「とっとと済ませろ。私はここで見張っといてやる。」
「えぇ?向こう向いてるのぉ?怖いよぉ。」
「幼女のしょんべんを横で見てる大人のほうがよっぽど怖いわ!色々な意味で!」

リミィの淋しそうな言葉をよそに、デミテルは主張した。リミィは残念そうに
木陰に入っていった。

デミテルはフゥっと溜め息をついた。


まったく・・・トイレぐらい自分で行けろクソガキめ・・・私が七歳から十歳
までの時は何もかも一人でやっていたものだ・・・トイレもお風呂も寝る時も一
人だぞ・・・一人で野宿した時の淋しさと言ったら、毎夜のように心臓が反復横
飛びをするかの如くバクバクしていたわ・・・しかもたまに変なお姉さんが夜中
に現れて『六万ガルドでどう坊や?』とかわけのわからん誘いをしてきたりだな
・・・

・・・くそ・・・今誘われたらなぁ。ぜひ・・・いや。六万はやはり高いだろ
これ・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


「んぶぅ!?」
「!!」

デミテルは木にもたれ掛かったまま眠りに陥りかけていたのだが、突然背後か
ら聞こえた、苦しそうな口ごもる声で一気に目を覚まされてしまった。

リミィが入っていった木陰から、ガサガサと木々が擦れ合う音がする。次に少
女がウーウーと呻く声。次に

何かの刃物が引き抜かれた、金属音。

次の瞬間、デミテルがもたれていた木が、根本からスッパリと切れた。デミテ
ルが超小規模のサイクロンを手元に発生させたからだ。

木は、金属音がした方に真っ直ぐに倒れた。

「誰だ!!」

デミテルは倒れた木に飛び乗り叫んだ。

 暗闇でよくは見えない。が、誰かが森の奥へ走っていっているのがかろうじて
だが捕捉できる。

二人いる。片方は右肩に何かを背負っている。背負られたものは長い、水色の
髪をしていて・・・

口に、布を噛まされている。あれでは得意のむせび泣きはできないだろう。

デミテルは木から飛び降りると、前方の二人を追って駆け出した。


馬鹿が・・・このマッハーフエルフの足から逃れられるとでも・・・

・・・ん?奴ら何かこっちに投げたぞ。あの白い球体は・・・まさか・・・


マジックミスト。だった。

デミテルは、白い煙によって全ての視界を遮られていった。


「・・・で。逃げられたわけなんだな。」
「いや。まぁ。しょうがないだろ。アレ使われると逃亡の成功率が三十%アッ
プするんだぞお前。どうしろと言う?」
「ダオス様の部下ともあろう男がそこらへんの小悪党に逃げられてどうすんのよ。」

デミテルはフトソン達の元へ戻っていた。まず、俯せで半分死んでいるフトソ
ンの横っ腹に蹴りを入れ蘇生させ、続いて枝にとまっていたジャミルに思い切り
鍋を被せてやった(『いやぁぁぁ!?狭いのいやぁぁぁぁ!?』)。

デミテルはハアと溜め息をついた。

「まったく世話の掛かる奴だ・・・人生において『誘拐される』などというイ
ベント、そう起こるものじゃないというのに・・・ああまったく・・・」
「それで、どうするんだなデミテルさん?」
「どうするか、だと?」

妙な事を聞いてくるものだな、と、デミテルは眠い目をパチクリさせた。そし
て、当たり前のように言った。

「捜しに行くに決まってるだろ。いつまで寝ぼけてるんだ貴様は。」
「でもデミテルさん昼間、『いっそのことそこのうるさいガキを連れ去って行
って欲しいものだ』って・・・」
「え?あー・・・」

デミテルは、急に恥ずかしくなった。

「・・・・・・いや!別に私はどうだっていいんだよ正直!しかし貴様らがど
うせ捜したいとか馬鹿なことを言うだろうから仕方なくだな・・・べ、別に貴様
らがいいんなら私はいいんだよ!あんなガキどこに売り飛ばされようともな!そ
れで!?捜すか捜さないか!?今日のご注文はどっち!?」
「・・・デミテルさん。」

フトソンは小さく呟くと、デミテルの肩に手を置いた。そして、淡々と言った。

「・・・も少し上手く嘘ついてくんないと、僕達合わせずらいんだな。」
「む・・・!」

デミテルは頬を赤くし、少々頬を膨らませた。やがて、フトソンの手を肩から
払い、咳ばらいをすると、こう続けた。

「・・・余計なお世話だ。さあ。とっとと捜しに行くぞ。貴様らが捜したいか
ら、仕方なくな!」

デミテルは吐き捨てるように言いながら、歩み始めた。フトソンとジャミルは
そのちょっと照れて小さくなった背中を見ていたが、やがて互いに顔を見合わせ、二人でニヤリとした。


やはり、あの男はロリコンだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


小せぇガキだな・・・ちゃんと売れるのかぁ?
世界は広いんだ。逆にこういう幼女を求める変態金持ちは捜しゃいくらでもいらぁ。んなことより、あの女と同じとこに入れていいのか?
手足縛ってるし、あの女は全身ホーネットの毒針の麻痺毒が回って動けねーんだ。心配するこっちゃね。あんな子供に何が出来るよ。


・・・あれ?ここどこだろ。

何してたんだっけ。確か・・・夜中にトイレ行って・・・終わって・・・デミ
テル様のとこ戻ろうとして・・・そしたら・・・後ろから引っ張られて、布くわ
えさせられて・・・そのあとよくわかんない・・・

誰か・・・誰かリミィを膝に乗せてくれてる?ひざ枕してくれてる・・・?


リミィは、ゆっくりと目を開いた。目の前に広がる視界は、やけに狭かった。

かなりこじんまりとした小屋。と思われる。小屋を形どる安っぽい木の板に、
鍬やら斧やら鎌が立て掛けられている。農具をしまっておく小屋であろうか。

地面が直接露出する床に(床とは呼ばないか)、リミィは横になっていた。頭
を、温かく柔らかい何かに乗せて。

リミィは声を出そうとしたが、う~う~といううめき声しか出なかった。オレ
ンジ色の布が口にくわえられるようにして、頭に巻かれている。さるぐつわを噛
まされた状態だ。

リミィは恐怖より何より、その、誰かのひざ枕がとても心地がよかった。優し
さに満ちた、何かを感じた。

以前、嗅いだ事がある。気がする。

リミィは膝の主の顔を見上げて見ようとした。が

好奇心より、眠気の方が強い。彼女は再び目を閉じ、スヤスヤと眠りについた。ひざ枕の主の吐息を耳で感じながら。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「・・・ところでデミテルさん。」
「何だフトソン。」
「この夜中に何のあても無く森の中を探索するのは、どう考えても無理がある
んだな。」

リミィが完全に寝入った頃。森林内を先頭を切って歩くデミテルについて歩き
ながら、フトソンは言った。

一面真っ暗。月明かりもほとんど木々で隠れて心ともない。こんな状況で姿を
くらました一人の幼女を見つけ出すのは至難の技だろう。

が、デミテルはフッと笑った。

「フトソン。この私が何の考えもなく捜し歩いてるとでも思ったのか?」
「正直アンタそのものが何考えて生きてるのかすらわかんないんだな。」
「貴様に言われたくはない。」
「僕こそ言われたくないんだな。」
「いや、貴様の方がその倍何考えてるか・・・」
「いやいや。アンタの方が通常のザクの約三倍のスピードで何考えてるか・・・」
「何でもいいから、今この瞬間に何考えて歩いてるのか話しなさいよ。」

泥沼化する二人の会話をど真ん中から叩き斬るように、ジャミルがデミテルの
肩で淡々と言った。デミテルはフンと鼻を鳴らした。

「・・・周りをよぉく観察してみろ。」
「アタシ鳥目だから無理。」
「じゃあ肌で感じ取れ。」
「どこの武道の師匠?」
「あ・・・僕わかったんだな。」

フトソンは一本の木の枝を指差した。一層に生い茂る枝の中でそれだけ

先が折れている。

「足元もよく見てみろ。この獣道で草が不自然に踏み倒されているところがあ
る。大の大人二人が子供を肩に抱えて必死に走って逃げる。その状態で枝を体で折りな
がら森を突き進む行為は特別変な話ではないだろう。おかげで通り道はまるわか
りで嬉しいことこの上ないが。」
「・・・なんか。」

フトソンは眉間のシワを寄せると、やがてデミテルに言った。

「論理的に物事を把握するデミテルさんて、すこぶる気持ち悪いんだな。すこぶ
る。そう、すこぶる。」
「そんなすこぶる強調せんでいいわ!私はいつだってどんな時だって感情に流
されず論理的だろうが!何たって私はクール&ヒール。冷静な悪人だからな。う
ん。」
「論理的な奴は基本的に何の意味も無く『スパーキング!』とは叫ばないと思
うけど。あと『クール&ヒール』って何か、捻挫とかした時膝に張ったりする湿
布の商品名みたいだからやめときなさい。」

ジャミルは的確な意見を述べた。が、デミテルはこの時『クール&ヒールって
いう称号つかないかな』などと妄想していた為聞いてなどいなかった。

ジャミルはあおすじをたてた。が、ここで怒りを露出しても無駄だと悟り、深
呼吸して落ち着かせた。話題を変えてしまおう。

「にしても、あんなガキ誘拐してどうするつもりかしらね。」
「まぁ、いくらでも使い道はあるだろう。労働に使ったり変態に使わせたり。」
 「変態?デミテルさんみたいな?」
 「いやお前みたいな変態。」
「ま。もしアタシが人型だったら確実にあの小娘よりも率先されて誘拐されるでしょうけど♪」
「そうだな。率先して食料にされそうだな。率先して焼鳥だな。」
「いやいや。人型だったらの話を・・・」
「人型だったらの話か。貴様のように人の言うことにいちいち突っ掛かってく
るような性格の女は身も心も顔も穢れ切ってるだろうから安心しろ。仮に美しか
ったとしてもそれは化粧品という名の不純物を顔に乗っけた仮面であり・・・」
「・・・・・・。」

ジャミルはデミテルの耳の穴を突きまくってやりたかったが、何とか思い止ま
った。やるだけ無駄だろう。


・・・見てなさい。アタシが元の姿に戻った暁には、アンタをもう二度と表舞
台を歩けないほどの醜態にさらしてくれるわ・・・

・・・そういえば

『さっきデミテルさんの首を絞め上げて絞殺を謀ったキレイな女の人いなくな
っちゃったんだな。』
 『やはりな・・・奴はおそらくアレだ。つつもたせに違いない。私と関係を持
ったなどと嘘ぶき、私から金を巻き上げる気だったに違いない・・・』
 『でもさっきデミテルさん『あの女結構いい女だと思わんか』とか言ってたよ
うな・・・』
 『や、やかましい!私が言ったのは容姿であってだな、中身の方は・・・』


・・・イイ女・・・か・・・
 

・・・・・・もしアタシが本当に誘拐されても・・・

こいつは・・・この馬鹿は・・・今のように・・・

捜しに歩いてくれるかな・・・アタシの為に・・・アタシを助ける為に・・・

・・・・・・。

・・・ってアタシは何また脳髄が腐り果てたようなアホンダラ妄想をぉぉぉぉぉ・・・!!


ジャミルが後悔で翼を頭に覆った時。

 何か音がした。本当に小さい音。糸が一本ぷっつり切れたような、そんな音。

ジャミルは気付いた。何か不確定多数のものが自分達の頭の上から風を切っ
て落ちてくる。

ジャミルはデミテルの耳元で思い切り叫んだ。デミテルもそれに合わせて思い
切り髪を逆立てた。

「デミテル横に飛びなさい!早く!」
「はい!?いきなり何わけのわから・・・」
「あっちにキャラメルが落ちてるわよ。」
「ダイブ&キャァァァァァァァッチ!!」

ジャミルの言葉に乗せられデミテルは思い切り左斜め前方にダイブした。地面
に肘をついた直後

数え切れない数のナイフが、デミテルが元いた位置に突き刺さった。

ジャミルはビックリしながら振り向き、無数に突き刺さった地面を見つめた。

「し、死ぬかと思った・・・」
「おいインコ。キャラメルなどどこにもないぞ。」
「キャラメルとか言ってる場合かぁ!?キャラメルの代わりに大量のナイフが
そこぶっ刺さってるわよ!!」
「キャラメルは無いが・・・なんだこれは?」

デミテルは何か、細い糸が地べたに水平に張っているのを見つけた。ピアノ線
のようだ。

デミテルは興味本意で、糸をつついた。途端


ドガアアアアアアアアアアン!!


「ちょっとデミテル。デカブツが突如として発破したわよ。」
「・・・え。」

見れば、先程まで眼前に落ちてきたナイフにビビっていたフトソンがいたとこ
ろは、木っ端みじんになっていた。超小規模クレーターが完成している。

「・・・どうやら、そこらの小悪党にしては準備がよいようだな・・・」

デミテルは足元に注意しながら、ゆっくりと立ち上がった。そして、目を凝ら
して周り一帯を見た。

 微量な月明かりで、無数のピアノ線が光を放つのが見える。


てっきり闇雲に走って逃げたと思っていたが、これほど罠を張って自分達は一
つも引っ掛からずこの森を駆けていった。脱出ルートをあらかじめ完全に決めて
いたのだろう。


『この森は最近人さらいが増えとる。特に女子供を狙ってのぉ。気ぃつけい。』


そこらの小悪党よりは・・・たちが悪いほうのようだな・・・


「・・・行くぞジャミル。フトソンの死を無駄にするな。」
「わかったわ。デカブツの死は無駄にし・・・」
「・・・ちょっと待つんだな。勝手に人殺すんじゃないんだな。」

全身すすまみれになりながら、フトソンが茂みから出てきた。

 「名誉の戦死を遂げたフトソンに敬礼でもするか。」
「やめときなさいよ。去る者は追わない主義で行きましょ。」
「それもそうだな。私も前だけを見て生きていこう。」
「いやいやいや!少しは後ろを振り向くんだな!!振り向くことで知る大切な
こ何かがここにあると思うんだな!!」

「・・・なんだ。二人になれるかとちょっと期待したのに・・・」
「何か言ったかジャミル?」
「うるさい!何でもないわよ!!もぉ!!」


つづく

あとがき
最近ケータイの電池の減りが速い気がする。まだ一年しか付き合ってないのに。まぁ、ずっとメール昨日使って小説書いてますから普通より早いかもしれない。

それでですね、サ行あるじゃないですか。3の番号のところ。それの真上に電源のオンオフするスイッチあるじゃないですか。寝ぼけながら書いていますとサ行の文字書こうとして3番のボタンを二回押したと思ってたら間違えてその電源ボタン押しちゃってたりするんですよ。そうしたら最後。それまで書いた内容全部飛びますからね。保存してませんから今まで書いた話の内容の半分が一気に消滅したりします。すると全身が「ぐおおおおお・・・」って感じに襲われてそのままベッドで死にます。そしてまた、消滅した内容を思い出しながら書いていきます。

ああ・・・無情・・・

次回 第三十九復讐教訓「金で買えないものはない が 金で得られぬものはある
多分」

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