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デミテルは今日もダメだった【39】

『盗賊』という字を、辞書で引いてみた。


 盗人。泥棒。偸盗。この三つの言葉が入っていただけだった。舐められたもん
だ。も少し凝った説明文入れてくれよ。別にいいけどさ。


俺には親はいない。正確に言うと、かつていた。俺の眼前で矢に刺さって死ん
だよ。

お袋と親父に矢を放った奴らは、その死体の首をまるで道に捨てられた空き
缶のように踏み付けて

 親父がいつも自慢していた、曲線を描いた力強い角をサーベルで叩っ斬った。
まるでキノコ狩りでもしてるんじゃないかと思うくらい、楽しげに。

俺達の角は装飾品として高く売れる、なんて、知ったのはずいぶんとあとだっ
たよ。

角は俺達、サーヴェン族の誇り、プライドそのものだった。それ以外何物でも
なかった。人間どもの貿易品としての価値なんて知るわけねーよ。

俺の親を狩ったそいつらに、俺は震えた声で何か言ったのを覚えてる。何だっ
たか。


可哀相だと思わないの?


 だったかな?今考えると変な質問だ。自分の親殺した相手だぞ。もっと何かあ
んだろ。って言っても、今同じ状況になっても同じことしか言えない気がする。

さっきの俺の問いに、奴らのうちの一人が答えた。


モンスターに人権なんてあると思ってるのか。


ジンケン。何だそれは?美味しいのか?学の無い俺にゃわからなかった。

気がつくと、俺は首に首輪をかけられていた。鎖の綱でギシギシと絞められて
、窒息しかけたのを覚えてる。

サーヴェン族の角は、ある程度の長さ、太さ、紋様がないと価値が低いんだと。檻の中入れられて、鎖で繋がれ、毎日犬みたいな飯食わされて。バカヤローども。こんな不健康生活虐げられて立派な角が頭から生えるかよ。質のいい牛肉はちゃんと栄養与えた牛から取れるんだ。それと一緒だろ。

五年だ。五年、その狭い檻で俺は生きていた。自殺という手はあったのかもし
れない。だが、死ぬ気力も俺にはなかった。どっちにしても、ある程度の長さに
角が伸びたら俺は角切られて殺されるんだから。

偶然?奇跡?どういうわけかその日、奴らは俺の檻に食事(エサ)を置いたあ
と、鍵をかけなかった。

俺はその時何か考えていただろうか?いや、何も考えてなんていなかった。俺
は獣の如く、いつもの南京錠が無い扉を蹴り飛ばした。

檻の外の部屋にいたのは一人だけ。かつて俺の質問に答えた奴だ。

わずか二秒後、そいつの首をへし折ってやった。毎日あんな食事だったっての
に、憎しみってのは偉大な力だ。こんな握力俺はいつ身につけたんだか。

部屋に奴らが来るたびに、俺はそいつらの首をへし折った。運がいいことに、
部屋には一人ずつしか入っていなかった。

最後の一人をやった時。その男は、締め付けてきた俺の手に触れながら言った。


化け物め・・・


化け物。モンスター。モンスターはみんな化け物ということか。モンスターに
人権はない、と奴らは言ったが、それはつまり、化け物に人権なんてないわけか。

俺達モンスターが化け物なら、お前ら人間ってのは何だ。そこらで何の迷惑も
かけず生き、平和にやってるモンスターを、金の為に狩るお前達に人権は何故発
生するんだ。

わーったよ。人間から見てモンスターに人権ねーなら、

俺から見てテメーら人間にも人権なんざねぇ。あるはずがねぇ。俺達が突然お
前らの親殺したとしても、俺には責められるいわれはねえ。

自由になったあの日、俺は自分の角を切った。俺の親の角を切られたあのサー
ベルで。

頭にスカーフ被って。これで俺はどう見たって人間だ。ちぃとしゃくに触るが。

さあ反撃開始だ俺。奴らがやってきたことを

今度は俺がやってやる。

第三十九復讐教訓「金で買えないものはない が 金で得られぬモノはあるかも」

「はい。お前ら。この状況の把握ができますか。」

月が浮かぶように映る湖畔。そこは森の奥地にある。湖の周りは草原が開けている。

が、ここ数カ月、この湖に他方から人は来訪していない。否。来訪できないの
だ。近寄ろうと森の中を歩くと、突然ナイフが落ちてきたり足元が発破したり矢
が飛んできたり丸太が飛んできたりするからだ。

そんなおっかない湖にどういうわけか、二、三十人もの人だかりができている。いるのはごつく、いかつい男達ばかりだ。

だが、その中で一人、とてもスッとした顔立ちの青年がいる。深い緑の髪に、
青いバンダナ。腰に少し年季が入ったサーベルをぶら下げている。

彼は今、あるものを見下ろしている。両手両足を縛られた、一人の女性と一人
の幼女。

幼女はスヤスヤと眠りにおちたまま。が、女性の方は違う。碧色の目が、眼前
のバンダナ青年を睨み付けている。

「・・・にしてもお前。こんなひ弱そうな女に指折られたのか?」
「見くびっちゃダメですよ頭。この女の握力は俺が身を持って体感してるんス
から。」

バンダナ青年の問いに、ガリガリに痩せた男が答えた。右の人差し指に包帯が
巻かれている。

それに続くように、後ろから大柄でむさい男が前に出た。

「俺はそいつにオタマで殴られやしたよ。オタマをどうしたら打撃武器に昇華
できるんだか。」
「それで、殴られて気絶したお前背中に背負って逃げたんだよ。大変だったぜ。にしても・・・」

小太りな男が続けながら、スヤスヤ眠るリミィの頭を足で小突いた。

「ホント、アルヴァニスタでこのチビガキを拉致ろうとした時は酷い目あいや
した・・・ま。今となっちゃこの女は何もできねぇ。吹き矢の麻痺薬がきいてま
すから・・・ねっ!」
「っ!!」

小太りの男は貯まり込んでいたものを吐き出すようにして、女性の腹を蹴りあ
げた。女性は悶絶こそしなかったが、身を曲げた。

「お前らは売り飛ばされる。良心的な金持ちどもの元へ。恨むなら、その運命
に生まれたこと恨みな。あと余り乱暴に扱うんじゃねーよ。綺麗じゃねーと価値
が下がるだろ。」

バンダナ青年は小太り男を下がらせた。ブロンドの髪の女性は、より強く青年
を睨み付けた。青年は露骨に無視し、周りに指示を出し始めた。

 「明日には人身市場に運び出す。馬車で運ぶ為のコンテナ準備しとけ。中の掃
除もな。汚したら値段が下がる。」


迂闊・・・この私がこんな奴らに手玉に取られるなんて・・・

背後から吹き矢が首筋に一本刺さっただけ。たったそれだけで自由が効かなく
なった。虫系のモンスターの毒とか言ってたっけ・・・麻痺系の毒・・・

売られるってどういうことだろ。良心的な金持ち?何されるんだろ・・・ダメ。考えちゃ。あんまり具体的に想像しちゃいけない気がする・・・

・・・・・・ごめんお兄ちゃん。私・・・・

・・・・・怖い・・・

「大丈夫だよぉ。リリスお姉ちゃん。」

幼い、かわいらしい声がした。リリス=エルロンは、ビックリして声の主を見
下げた。

リミィは眠ったままだ。寝ぼけたまま話しているらしい。

リリスは悲しさと悔しさに襲われた。この幼い少女を救う力が無い自分が不甲
斐無く感じられてならない。


『もし次会う時が会ったら私が助けてあげる』


そう言ったのに。私は・・・


リリスは縛られたまま、体をしゃがめてリミィの耳元に顔を寄せた。これだけ
の動きをするにもかなり時間がかかった。毒のせいで全身がビリビリ痺れるから
だ。

 そして、小さく呟いた。

「・・・ごめんねリミィちゃん。私・・・」
「・・・大丈夫ぅ♪だってぇ・・・」

リミィはやはり寝たままなのだが、何故か反応した。そして、言った。笑顔で。

「だってぇ・・・

・・・絶対にぃ・・・

・・・デミテル様が助けにくるもん♪」
「おい。てめーら何話して・・・」


ドガアアアアアアアン!! 「ぎゃあああああああ!!」

小太り男がまたリリスの腹に蹴りを入れようとした時、森から爆音が響いた。
それと同時にとても情けない悲鳴も響いたが。

立ち上る粉塵。煙。火薬の焦げ臭い匂いが一帯を包んだ。

バンダナ青年は立ち上る煙を眺めていたが、フッと笑った。


誰か・・・おそらくそこのガキを拉致した時いたという男が追ってきて「線」
に引っ掛かったんだろ・・・よくここまで罠に引っ掛からず来たもんだな・・・

・・・が。無駄だったぁーなぁ。森を抜ける直前の茂みの足元は抜目なく「線
」が張ってある。どう通ろうとしても無理だ。

俺達が通る時はどうすればいいかって?簡単だ。軽く茂みを飛び越えればいい
話だ。簡単な話だが・・・それを知らなければ避けることは敵わない。

残念ながらもうそいつはバラバラの肉片・・・


「つかぬ事をお聞きするがー?」

バンダナ青年が爆発した方向に背を向けた時、後方から声がした。青年は一瞬
キョトンとして、急いで振り返った。

巻き上がる煙の中を、誰かが悠然と歩いてくる。

 マントに半袖という妙な着合わせ。青い髪の中に一房だけ埋まる真っ赤な前髪。尖った耳先。両肩に銀色に輝くショルダー。

デミテルは、黒いマントについた砂をぱっぱと払いながら、ニヤリと笑った。
バンダナ青年周囲のごろつき達は口をあんぐりと開けている。

「驚きになっているところ悪いが。」

デミテルは依然余裕しゃくしゃくでこちらに向かって歩んでくる。ごろつき達
は剣や斧を構えつつも一歩のけ反った。

「実は先程、私の連れ・・・まあ。正直煮られようが焼いて食われようが私は
どうでもいいんだが・・・とにかくガキが一人誘拐されてな。何か知らんか。ゴ
ミども。」

デミテルはニヤニヤと言った。ある程度近寄ったあと、足を止めた。

デミテルはほぼ無傷だった。顔にかすり傷が少々残っている程度だ。とても火
薬の罠で爆破されたようには見えない。

バンダナ青年は冷や汗というものをかいた。何年ぶりにかいたのか。これほど
までに追い詰められた気分はずいぶん久しい気がする。

デミテルの蒼い瞳に、ごろつき達の背後でスヤスヤ眠るリミィの姿が映った。
その次に、男達同様こちらを凝視するブロンドの長い髪の少女。

 ここでデミテルは、ここに来てから初めて怪訝な表情をした。以前見たような
髪の少女だ。


『次会ったら私が助けます』とが言ってなかったかお前・・・まったく・・・ま
た財布でも落としたのか・・・


そんなことを考えながら、デミテルはコホンと咳ばらいした。

「ふむ。どーやら、私の探し物はそこで寝入っているようだな・・・返した貰おうか。」
「・・・どうやって来た。」

バンダナ青年は腰からサーベルを引き抜きながら尋ねた。

「どうやってここまで無傷で罠を抜けてこれたんだ?」
「・・・よくぞ聞いてくれた。いいだろう。貴様らに教えてくれる。貴様らの
ような生半可な悪人には到底理解などできない、真の悪人が持つ、恐ろしき知恵
を!!」

※三十分程前
『フトソン。』
『何だなデミテルさん?』
『お前、この森を先頭を切って駆け抜けろ。貴様のあとを私が追うから。』
『・・・いやいやいや。そんなことしたら僕が罠かかって死んじゃうんだな。ナイフとか頭刺さったらいくら僕でも死ぬんだな。』
『そうだ。お前が仕掛けてある罠全てに引っ掛かることで同時に全ての罠を除
去できる。私は貴様が通ることで完成した安全ルートを歩くというわけだ。これ
で私は安全だ。そういうことだ。』
『・・・・・・それつまり僕に死ねって言って・・・』
『リミィを助けたくないのか?安心しろ。貴様の頑丈さなら核爆発が起きても
死なないだろ。水ぶくれ出来るぐらいで済むだろ?』
『・・・・・・我が人生に一片の悔い無・・・・・・悔いだらけなんだなぁぁぁおぁ!!』

その後のフトソンは悲惨だった。頭にナイフが三十本ぐらい降ってきたり、矢
が飛んできたり、足元が爆破したり、鉄球が横から飛んできて腹に直撃し吐き気
を催したり、竹槍だらけの落とし穴にはまったり、メーサービーム的なものが頭
をかすめたりした。が、それでも彼は突き進んだ。

 そして、彼はついに森を抜ける直前までやってきた。あとは目の前の木々の茂
みを踏み越えるのみ。


やったんだな・・・僕はついにやったんだな・・・ああ。人生とはこういう一
瞬の幸せを勝ち取る為に永遠にも感じられる苦難を味わうんだな・・・でも・・・

この一瞬の幸せにはその苦難に似合った十分の価値がぁ・・・!!


ぷつ。


彼が感動を噛み締めたちょうどその時、彼の足元でピアノ線が切れる音が小さ
く鳴った。

 ドガアアアアアアアン!! 『ぎゃあああああああ!!』

「・・・というわけで、貴様らの無能な罠は何の功もなく無駄に終わったとい
うわけだ。この程度の罠でこの私を陥れるなど・・・笑止千万!!」

デミテルは胸を張り、優越感に浸りながら楽しそうに言った。

誰も、何も喋らない。やがて、一人のごろつきがある一点を指差していることに周り
は気付いた。仲間の盗賊達はその、最後の爆発が起きた森の入口を見つめた。

爆発による土煙はすでに消え切っている。あるのは火薬により生じた衝撃によ
る小規模クレータと

一つの、くたびれたボロ雑巾の如く灰色にくすみ切った、ぐったりしたフトソン(多分色々な意味でもう死んでいる)の残骸が、シュウシュウ煙をあげながら横たわっていた。頭にナイフが何本か刺さっている。


あれ・・・死んでね?


誰もがそう思ったが、デミテルは気にも止めていない。


「おい・・・」
「何だ小太り。」
「あれ・・・もう死んでねーか?お前の仲間?」
「フトソンは滅びん。何度でも甦・・・」
「滅びてるだろアレ!もう生気感じられねーもんアレに!ただのくだびれた着
ぐるみと化してるじゃん!」

小太り男はその場全員が思っていることを代弁した。そう言われてデミテルも
後ろを振り向き、ただのくたびれた着ぐるみと化したフトソンを見た。

数秒の間。そしてデミテルは言った。

「後でライフボトル飲ましておけば大丈夫だ。この世界はどれだけ死にかけよ
うともそれを飲ませれば万事解決だからな。うん」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・テメエが俺達以上の悪だと言うことはよくわかった。が。」

バンダナ青年の言葉に合わせ、盗賊達は一斉に剣を構えた。デミテルはこの中
で一番若いであろう青年を睨んだ。


アイツが頭か・・・あの若さで賊の頭領とはなかなかだ・・・まだ十八かそこ
らの歳だろうに・・・


デミテルはニヤリとほくそ笑んだ。昨日のモリスン邸での家事で鈍ってしまっ
た戦闘意欲を引き出すには十分な敵数だろう。

こうなるとリミィを人質に取られると動きづらい。今の時点では盗賊達はたっ
た一人のデミテルをなめている。まだ刃をリミィに向けることはないだろう。

それまでに・・・


「こら。起きなさいよ小娘。いつまで寝てんの。」

盗賊達がデミテルに敵意を剥き出し、リリス達に背を向けている隙に、一匹の
インコが後から回り込んでいた。ジャミルだ。

ジャミルは未だスヤスヤと眠り続けるリミィの額はコンコンつついた。

「早く起きろつってんでしょーが。アンタが仰向けに寝てたんじゃクチバシで
縄解けないでしょーに。」
「ふみぅ・・・・・・。」
「ふみう、じゃないわよ。そんな言葉吐いて可愛いとでも思ってんの?アタシ
だって人型の状態で眠気眼で目を擦りながら『ふみう?』とか言ったらアレよ。
世の男どもなんていちころよいちころ。萌え死ぬわよ。読者に絵で伝えられない
のが残念よ。」
「それは無いと思う。」
「なんで寝ながら否定してくんのこのガキ!?しかもめちゃくちゃ冷静に言い
放ったわよ!?」
「や、やめてぇ・・・ラ、ライフポイントはもうゼロよぉ・・・」
「何の夢見てんの!?」
「・・・ねぇ?」

小声でピーピー喚くジャミルに、リリスがそっと囁いた。ジャミルはめんどく
さそうに振り返った。

「何よ。言っとくけどアタシは見ず知らずの人間を助ける程気のいいインコじ
ゃないわよ。ホントだったらこの小娘だって放っておきたいってのにあの甘党馬
鹿が・・・」
「わかりました。助けなくていいので、私のエプロンのポケットからパナシーアボ
トルを出して、飲ましてくれませんか?それだけでいいので。」
「知らないわね。自分でどうにかしなさ・・・」
「お願いします。可愛いインコさん。」
「しつこ・・・・・・え?可愛い?」

可愛い。そんな言葉、何年ぶりに聞いたろう。しかも、このインコの姿で。

ジャミルは自分が頬を赤らめていることに気付き、ブンブン顔を横に振った。
こんな安い言葉に乗せられてたまるか。

「ふ、ふん!んな適当なヨイショしてこの天下のジャミル様を誘導しようなん
ざ百年早い・・・」
「ジャミル?それが貴方のお名前?見た目は可愛いくて名前はとっても理知的
ですね♪」
「・・・え?そ、そうかしら?」
「はい♪」

リリスは屈託の無い笑顔で断言した。ジャミルはほんのり笑顔になった。


け、結構いい奴じゃないのよ・・・やっぱりわかる奴にはわかるのよね・・・
このアタシの可愛いさって・・・♪


ジャミルはしばらく一人ニヤニヤした。ちなみにリリスに、『おだてて使おう』などという目論みは無い。ただ思っていることを思うがまま言っているだけで、腹黒い考えは全くの皆無。むしろ・・・


綺麗な羽・・・一本欲しいなぁ・・・♪


この状況でそんなことを考えている始末であった。

ジャミルはスイッと飛び上がると、膝をついて座るリリスの肩に乗った。

ジャミルは眉間にシワを寄せ、リリスの顔とは逆を向きながら、こっ恥ずかし
そうに言った。

「ま、まあアタシも鬼じゃないし・・・ア、アンタがそこまで言うんだったら
やってやってもいい・・・みたいな・・・」
「本当ですか♪ありがとうございます♪可愛いインコさん♪」
「もぉ♪可愛いは余計だっでばぁ♪そんな褒めても出でくるのは羽毛だけなん
だから♪ばか♪」

完全なる人(鳥)心把握がここに完成した。わずか三分である。


「お前。『人権』てあると思うか?」
「なに?」

深い緑の髪を揺らし、青いバンダナをひらめかせながら、青年は淡々と言った。デミテルは身構えたまま反応した。

青年は続ける。表情の筋肉をあまり使わず、淡々と。

「人の権利は法の下に保護されている。どれほどの悪人、罪人、はたまたダオ
スであろうが人権は全ての人間レベルの知能を有する者に与えられる・・・と、
表向きの世の中は言うが・・・

俺は違うと思っている。所詮、どう綺麗な言葉で見繕うが、結局金で全て片付い
ちまうんだよ。」
「なるほど。確かに。」

デミテルは首裏をボリボリと掻きながら、簡単に賛同した。そして続けた。

「もし人権が買えないものならば、貴様らのように人の売買で儲ける輩はこの
世にいない。そしてそれらを買う輩がこの世に溢れているのも事実だ。なかなか
意見が合うなお前。」
「ありがとさん。」
「・・・だが。」

デミテルはふと夜空を見上げた。あまり星は出ておらず、数個の弱々しい点が
黒い中にあるだけだ。

やがて、デミテルはフッと笑った。

「・・・金は何でも買える。人の権利、人生さえも。だが残念なことに、己が手で失ってしまったものはなかなか買えないものも多いものだ。いや。得られぬものか。全く同じものは・・・二度と得られん。」


彼の脳裏を、一人の少女の笑顔が駆けていく。茶色い、長い髪をした少女の笑
顔。


もう一度その笑顔を・・・温もりを・・・あの日常を

もし、金なんぞで元に戻せたなら・・・私はいくらでも出そう・・・全世界の
銀行を破壊してでもな・・・って何言ってるんだか私は・・・

 金で得られぬものもある?そんなものは妄言だ。

 俺は金の為に人生そのものを奪われた。見ず知らずの物欲まみれの人間の為に。

この世に金なんてなかったら。俺の角を他人の為に取りに行く人間なんざいなかったろうに。だが、金は確かに世にある。世界を、人間を動かす。

俺はいつか、もっとデカイ金を手に入れる。手に入れて

今度は俺が、赤の他人の人生を買って奪ってやるんだ。今のこの仕事はその為
の知識等を得る為の足枷・・・

俺の仕事を・・・夢を・・・

復讐の邪魔はさせない。

バッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!

突然、水しぶきが上がる音がした。盗賊達もデミテルも、びっくりして一斉に
音の方を見た。

湖に、頬に傷がある盗賊が一人プカプカ浮いていた。白目を向き、気絶している。

一瞬、全員わけがわからなくなった。何故突然湖に落ちたんだ?

「・・・さて。準備運動は済みました。」

強く、かわいらしい声がして、盗賊達は一斉に声の方を振り返った。小太りの男は
ナイフ片手にひっと息を飲んだ。

女性が、指をゴキゴキ鳴らしながら、仁王立ちでこちらを睨んでいた。碧眼の目、先を束ねたブロンドの長い髪、ピンクの服の上に羽織った、フリフリがたくさんついた真っ白なエプロン。お腹のポケットからお玉杓子が一本出ている。足元には飲み干したパナシーアボトル一本と

腕力のみでひきちぎったと思われる、手首を縛っていた太い縄であった。

リリス=エルロンはフシューと深呼吸をすると、ニコリと笑った。笑っている
のにひどく恐怖が蔓延したが。

「・・・複数の男が一人の女の子を縛り上げ、揚げ句売り飛ばしにかかる。さ
らにはこんな五、六歳の小さな子供まで・・・・・・・・・・・・貴方達許しま
せん。もしここに私の兄がいたら貴方達は今頃八つ裂きの血まみれです。賭けて
もいいです。」

彼女の拳が、どういうわけか、ビリビリと電気をほとばせた。プレッシャーに
よって見える幻覚。などではなかった。

彼女の足元にいたジャミルは、ヒヤリと冷汗をかいた。リミィは未だ眠りにつ
いたまま。

ジャミルはゴクリと生唾を飲んだ。何か嫌な予感がする。

一方、リリスとは距離があるデミテルはあまり状況が読めていない。何故目の
前の盗賊達はあの女に睨まれて完全静止してしまっているんだ?

とにもかくにも、このままでは危ないだろう。

「あー・・・おい。縄が解けたなら早く下がれ女。怪我をするぞ。」
「いえ♪大丈夫です♪私今からこの人達を・・・この外道の皆さんを・・・」

リリスは笑顔で盗賊達の向こう側にいるデミテル呼び掛けに応じた。途端、拳
のビリビリとした光が、より強まった。

「・・・調理します♪」
「ぜ、全員あの女やるんだぁ!いそげぇ!」

小太り男がナイフを夜空に突き上げながら叫んだ。彼はこの女の恐ろしさを十
分知っている。

男の叫びに合わせ、全員が刀剣を構えて彼女の元に駆けていく。それをチラリ
と見た彼女は、次の瞬間

消えた。

「え?」
「こんにちわ。」

雷光が走った。途端、十数人の男達が吹っ飛び、湖に落ちた。

リリスは盗賊達の背後で、右ストレートを決めた姿勢で立っていた。周り一帯
の空気がビリビリと震えている。

「にゃろ!!」

かつておたまで殴られ気絶させられた大柄の男が、大剣片手に斬りかかった。
が、

「よっと。」
「え?」

大剣は彼女の眼前で止まった。

なんと、人差し指と親指で振りかぶって来た剣を止めている。

「あ・・・」
「危ないから没収です。」

リリスは指で剣を持ったまま、男を後に投げ飛ばしてしまった。男はデミテル
の手前に落下し、重低音とともに頭を地面に強打した。

デミテルはあんぐりと口を開けたまま、鬼神の如く強く、かつて共に財布を探
してあげていた少女を見ていた。

おい・・・

「雷神十連撃!!」
「ぐああああ!!」

 雷を帯びた拳の打撃が、次々と男達の顔面に突入し、吹っ飛ばしていった。敵
はあと十五人。

ちょっと待て・・・

「リリスラッシュ!!」
「ぶはああああ!!」

二振りのオタマによる打撃で一気に六人が宙に舞った。残り九人。

私の・・・

「獅吼!爆・雷・陣!!」
「るああああああ!!」

拳から巻き起こした闘気が、獅子をかたどり男達を巻き込んだ。同時に無数の落雷が男達を襲い、そのまま湖に吹き飛ばされていった。

 残り五人。

私の出番が無くな・・・!!

デミテルの心配は予想通りとなった。リリスはまるでかめはめ波でも撃ち出す
ようなポーズをとった。

「・・・サンダー・・・」
「に、逃げ・・・」
「ソード!!」

一面を真っ黄色に染め上げるような、極太の雷が、まるで世界を覆うかの如く
手の平から巻き起こっていった。


 「・・・ごきげんよう♪」

つづく

思うがままにあとがき
いつの間にか小説書き始めて一年経ってました。ちょうど今から一年前、五月四日に第一話送って・・・

・・・一年経ったていうのに、過去編未だに終わってないですね。戦争すら始まってないですね。どうするよ自分。来年には高三で受験生だぞ。さすがに受験生になったら今まで通り書くわけにはいかないよなぁ・・・

 できれば中途半端には終わらせたくはないです。最後まで書ききりたいです。

せっかく一年経ったから一周年記念的な話書こうと思ったけれど、そんな話いれこめる状況じゃないですね。

というか、一年通して読んでくださっている方はいらっしゃるのでしょうか?否、そもそもこの文章を読んでくださる方は果たして・・・・いや。マイナス思考はやめましょう。世界中が読んでいるという妄想をし、生きて行くんだ自分。

ゴールデンウィークが終わったらテスト週間か・・・・とかぼんやり考えてたら母が

「テスト週間およびテスト中は携帯取り上げる♪」

という恐ろしいことを公言してきたため、二、三週間程小説が書けないし送れないです。ごめんなさい。

いや、果たしてこの小説を待っている人は・・・・・・・・・・・ダメだぁぁぁー!!全世界、否!全宇宙が自分の小説を読んでいると・・・・・・


・・・それも何か嫌だなぁ・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・何だか虚しくなってまいりました・・・・

次回 第四十復讐教訓「恩は売っとくと便利だったり厄介だったり」

コメント

1話から読んでますよ!
この小説大好きなので、打ち切りだけは絶対にやめてください!

この小説大好きなので、打ち切りだけは絶対にやめてください!

同じく1話からよませていただいてますよ^^
二週間や三週間なんて文庫本がでるのを待つのに比べたらぜんぜん大丈夫ですよw
というかこの小説なら一ヶ月、いや半年、一年五年十年百年またなきゃならなくてもよみますとも!!
だからゆっくりがんばってください

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