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デミテルは今日もダメだった【42】

「第一回。ドキ!砂だらけの
バジリスクの鱗を探せ!
だーいさーくせーん。」
「え?今何か言いましたかクラースさん?」
「・・・いや。クレス。何でもない。」


第四十二復讐教訓「人と話すときは相手の目を見て話すこと」


「馬・痔・裏・素・苦ぅ?」
「バジリスクって何ですか?デミテルさん?」

ギラギラと照り付く太陽。巻き上がる砂。雲一つ無い空は、
この砂漠においては爽快感より不快感を与える。

フレイランド。デミテル達がここに来るのは二度目だ。二度目だからといって
慣れるわけもなく、先程もフトソンは幻影を見ていた。

『ちっくしょー!任〇堂めぇ!何でWi○はあんな売れてんのに我社のP○3は・
・・・・・ソ○ーは終わりだぁぁぁ!!』
『落ち着けフトソン!一体どんな夢見とるんだおまえは!?』
『・・・つーかいつから○ニーの社員になったのよ・・・デカブツ・・・』
『リミィちょっとあそこの川でお水飲んで来るぅ・・・』
『リミィちゃん!そっちに川なんて無い!川はこっちよ!』
『ってアンタも見えてんじゃないのよ!?待ちなさいエプロン女ぁ!それ多分
三途の川ぁ!?』

一時大パニックとなったが、何とか落ち着いたのであった。

彼らは今オリーブヴィレッジに向かっているが、その途中、彼らはあるものと
通りすがった。

石像。とても精巧な人間の石像が、顔だけを外に出し、砂に埋まっていたのだ。

その表情は驚愕に満ち、恐怖の色に染まっている。

デミテルはそれを見てすぐに察しがついた。この砂漠でこんな石像が落ちている理由はただ一つ。噂には聞いてはいたが。

「バジリスクというのはだな。」

厚い布製の水筒に口を当てながら、デミテルは言った。

「目を合わすだけで人を石に変えてしまうという怪物だ。目を合わした瞬間に
石と化す・・・」
「うわぁすっごぉい♪じゃあバジリスクさんは一生漬け物石に困らないで生き
ていけるねぇ♪」
「・・・別に漬け物石がなくとも一生を生き抜くことは出来ると思うぞ・・・」
「つーかこんな砂漠の真ん中で漬け物漬けてる訳無いでしょバジリスクが。ど
んだけ家庭的な怪物?」

羽根の毛繕いをクチバシでしながら、ジャミルは言った。最近ノミが体に出て
痒いのだそうだ。

「ケホッ・・・実際のとこ、バジリスク族ってどんな生活してんのかアタシも
よく知らないのよね。数少ないし、会話をしたって奴の事も聞かないし・・・」
「みんな恥ずかしがり屋さんなんですか?」
「違うわよ。口開いた瞬間に相手が石になっちゃうらしいのよ。アイツら口の中に目
があるから。ま、あくまで噂だけど。」
「口の中におめめがあるのぉ!?じゃあトマトとか食べたらきっとすんごく目
に染みて痛いんだろぅなぁ・・・・・・」
「・・・この砂漠の真ん中でバジリスクがトマト食べてたらそれはそれで凄い
光景なんだな・・・」

と、トマト片手にフトソンは呟いた。

「・・・おいフトソン。何一人ムシャムシャと取り憑かれたように黙々トマト
を食っとるんだ貴様。」
「え?いや、小腹が・・・」
「私だってなぁ!コンニャクゼリーを小腹埋める為に食べたいのに我慢しとる
んだぞぉ!?リリスが徴収したお菓子袋返してくれんのだからな!!それを一人
貴様はムシャムシャとリコピンを摂取しおってからに・・・・・・リリィス!私
にお菓子袋をぉ!!」
「三時のオヤツまで我慢してください。無作為に食べたら体に悪いです。」
「コンニャクゼリーが体に悪いわけが無いだろがぁ!?アレこんにゃく畑で採
れとるんだぞアレ!?」
「うっさいわよアンタ達ぃ!ただでさえ暑いってのに!つーかコンニャクゼリ
ーこんにゃく畑じゃ取れねーよ!こんにゃく畑そのものがこの世に存在しねーよ
!!アレは芋から作られてんだから!!」


           「えええええええぇ!?」


ジャミルの言葉に、デミテル、リミィ、フトソンは驚愕で死にそうになった。
ジャミルはデミテルの肩の上でズルリと滑った。

「何でほぼ全員がコンニャク畑の存在を頑なに信じてんのよ!?どんだけ夢見
た生き方してんだぁ!?」
「何てことだ・・・ウルト〇マンの背中にファスナーがあるのを初めて知った
時と同じレベルの絶望感が全身を駆け巡りおった・・・」
「僕はゴジ○の背中にファスナーがあるのを・・・」
「リミィは・・・えっとぉ・・・あのぉ・・・んとぉ・・・・・・・・・」
「無理して例え言わなくていいわよ・・・小娘・・・」


ズルズルズル・・・


リミィがガチャ〇ンで例えを言おうとしたその時。遥か後方で、何かが砂の上
を這う音がした。

そのどこか生物的で、生々しい音に、全員の動きが硬直した。

「・・・何の音なんだな?蛇?」
「蛇?コブラですかね?」
「コブラ?ハブじゃない?どっちにしてもインコのアタシには大敵なんだけど・・・」
「リミィが前住んでた所にはねぇ、ハブ焼酎っていう美味しいお酒が売っ・・・」
「・・・ただの蛇ならまだいいが・・・」

デミテルはおもむろにに後ろを振り向いた。途端、通常の三十倍の速さで首を
前に戻した。

彼の発汗量が、急激に増えたのが誰の目にもわかった。しかも暑さによる汗で
は無い。冷や汗だ。


まさか・・・アレは・・・あの姿は・・・噂に聞いた・・・


マズイ


「おいお前ら・・・」
「なんだなデミテルさん?」
「いいか・・・パニックを起こすなよ・・・・・・・・・約三十メートル後方の砂丘に・・・」

ゴクリと生唾を飲み込む。今、一生分の唾液を飲み込んでしまったのではないかと、デミテルは錯覚した。

「後方に・・・」
「こーほーにぃ?」
「・・・・・・・・・・・・バジリスクがいる。」
「ウギャ―――――――――――――――っ!?」
「落ち着けフトソォォォン!?」

デミテルの叫びもむなしく、フトソンは大パニックに陥った。

「アババババ!?アババババ!?」
「ちょっとデミテル!?デカブツが奇音を発声しながら暴れ出したわよ!?」
「いやなんだなぁぁぁ!!どうか漬け物石だけはご勘弁をぉ!?」
「落ち着け馬鹿!漬け物漬けるのに使用されん限りそれは漬け物石でもなんで
もなくただの石だ!」
「・・・あ。それもそうなんだな。」
「わかんないよフトソォン。胆石にされるかもよぉ?」
「いや――――――――っ!?」
「うるさぁぁぁぁい!!つーか目を合わせた相手を胆石に変体させる生き物っ
てどんな生き物だぁ!?珍種過ぎるわぁ!?ってどうでもいいんだよそんなことは!?」

どうしていつもいつも話の筋が別方向に(しかも恐ろしくどうでもいい方向に)
進んでしまうのかデミテルは疑問を持ったが、そんなことを頭で考えている場合では無い。もっと優先せねばならないことがある。

こうしている間にも確実にバジリスクが這ってくる音は近づいて来ている。

デミテルはスゥハァと深呼吸し、脳に酸素を送った。人間が落ち着く為にはまず、脳に呼吸をさせることだと、自分に言い聞かせる。

「ふぅ・・・お前ら。私が合図したら、背後を一切振り向かず、一斉に前に駆
け出・・・」
「石はイヤなんだなぁぁぁぁ!!エスケェェェェプぅっ!!」

デミテルの言葉は、半発狂したフトソンの雄叫びによって掻き消された。

次の瞬間、フトソンは全速力でクラウチングスタートによる逃走を開始した。

「こら馬鹿!?闇雲に逃げるなぁ!?砂漠で一人になったらどうする気・・・」
「待ってよぉフトソォン!!」
「あ!リミィちゃん待って!!」

無茶苦茶に砂漠を駆けるフトソンを追ってリミィ、そのリミィを追ってリリス
が駆け出した。

こうなると焦るのはデミテルである。この状況で一人にされるのは勘弁したいものだ。

「おい!?勝手に逃げるな!?ちゃんと固まって・・・」
「アタシも逃げ・・・」
「逃がすかぁ!?」
「まぶぅ!?」

デミテルの肩から飛び立とうとしたジャミルの足を思い切り引っつかみ、ジャ
ミルに引っ張られるようにデミテルは前倒しに倒れた。

ジャミルは砂の上に思い切り叩きつけられてしまった。

這ってくる音が、すぐそこまで聞こえる。

 ジャミルは口に入った砂を吐き出しながら、未だ足を掴んだまま離さず倒れて
いるデミテルを睨み付けた。

「ごっほ・・・何すんのよアンタぁ!?つーか何でアンタも倒れんのよ!?ギャー!?目に砂入ったぁ!?黄砂来襲!?」
「やかましい!正直に言うとそれは、恐怖で足がすくんで動かんのさ!!はっはっは♪
馬鹿めが!」
「馬鹿はどういう方面から観察してもアンタ以外何者でもないわよ!
断言してやるわぁ!!」


ズルズルズル・・・


「ってヤバイヤバイ!?ホント来るから!音ものすごく近づいて来てるから!
足放しなさいボケ!!女の生足をいつまでわしづかみしてるつもりだぁ!?痴漢
で告訴してやるわよ!?」
「何が女の生足だぁ!?ただの鳥の鉤足だろうがぁ!?そんなものわしづかみ
にしても何の興奮も覚えないんだよ馬鹿が!?ほぼ九割骨だろうが!?」


ズルズルズル・・・


「失敬ね!もし人型のアタシの生足わしづかみしたらアレよ!興奮で身が悶えるわよアンタなんて!?いや!悶えさせてみせる!」
「上等だコラぁ!?貴様が人型に戻った暁には気が済むまでこの私にラブコメ
的攻撃を仕掛けてくるがいい!全て無表情の『は?』で切り返してくれるわこの・・・」


ズルズ


ずっと聞こえていた地を這う音が、止まった。デミテルの足の前辺りで。

デミテルの全身が冷汗の湖にダイブしたかのようだった。これはジャミルも同
じことだ。

この状況で後ろを振り向ければ、その者はまさに勇者である。

しかし、彼らは勇者ではなく

悪人である。

「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・逃げ」
「ひっくしょん!!」
「ギャァァァァァ!!?」

沈黙を突き破るくしゃみがデミテルの足の裏から聞こえ、デミテル達は跳び上が
り、そのまま後ろを振り返った。

金色の魚。というのが第一印象である。体中が金色の鱗に覆われている。

目は無い。だが、口は閉じた状態でも、恐ろしく大きく、鋭い、曲線を描いた
牙が羅列しているのがわかる。

あの牙の裏側に目がある。そうわかった瞬間、デミテル達の体は石にされる前
にピタリと固まってしまった。

バジリスクはこちらを見つめたまま動かない。デミテル達も動かない。いや、
動けない。


あぁ死んだ・・・死んだんだ我々は・・・短い人生だっ


「あのぉ・・・」
「・・・・・・・・・へ?」
「僕を見て逃げないんですか?」
「・・・・・・。」

バジリスクが予想以上に優しく話しかけて来たので、デミテルは拍子抜けした。が、未だ足は動いてくれない。


落ち着け・・・

てっきり会話なんてできない動物的なモンスターだとばかり思っていたが、会
話出来る系統なのか・・・

それならば刺激しないよう話し掛けて、何とかして逃げ・・・


「・・・せんか?」
「え?」

恐ろしく怖い見た目なのにボソボソと喋る為、デミテルはバジリスクが何を言
ったか聞き取れなかった。

「僕と・・・」
「僕と?」
「僕と友達になりませんか?」
「・・・・・・・・・。」


誰か助けてくれ・・・様々な意味で・・・


デミテルはカラカラの天を見上げ、軽く泣きそうになりながら思った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


僕の名前はバジリスク族のフータと言います。名前の由来は
『どこぞのレッサーパンダのように高い視点で世界を見下ろせる人になるように』
という意味合いだそうです。

僕達バジリスク族は孤独です。常に他のモンスター達とは距離を取っていました。何故なら、目を合わすだけで石にされてしまいますから、誰も寄っては来ないんです。

でも、僕たちは目よりも嗅覚、聴覚が発達していて、基本目を開かずとも生活出来ます。

 それに僕らはみんなが思っている程凶暴じゃない。僕たちが人間を石にするの
は、あくまで自己防衛なんです。

 だから怖がらずに僕たちと接して下さい。人は見かけによらないように、バジ
リスクも見かけによらない。

いつかモンスターも人間も、わかりあえる世界になったらいい。そして望むな
らば、友達と目を合わしあって話をしたい。と、僕は思いました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「・・・何だ今のは。」
「僕が小学生の時に書いた作文です。『がんばったで賞』を貰いました。」
「何で目閉じてんのに作文の内容が読めるのよ。」
「あ。不自然でしたか?じゃあ改めて目を見開いて読・・・」
「いやいやいや!!結構です!もう!」

作文用紙をヒレ片手に持ち、内容を読み上げたバジリスクの前に体操座りをし
ながら、デミテル達は急いで首を横に振った。こんなしょうもない理由で石にさ
れては堪らない。

「僕、思うんです。いつかモンスターと人間が分け隔てなく暮らす社会。そん
な時代がきっと来る。いや、こなければならない。僕はその日が来ると信じ、こ
うやって人間の友達を作ろうと放浪しているのです。」
「そうか。だが残念ながら我々は先を急ぐので・・・」
「ああ!?待って!?」

とっとと立ち去ろうとしたデミテルの足に、バジリスクは急いでしがみついた。ヒレで。

バジリスクは今にも泣きそうな声で懇願した。

 「待って下さい!旅人だから長居はしてくれないとは思ってましたけど、こん
なあっさりしなくてもいいじゃないですか!?せめて何かしましょうよ!?ジェ
ンガとかオセロとか将棋とか人生ゲームとか・・・」
「何でそんな基本内向的趣向の遊びしか無いんだ!?バジリスクと人生ゲーム
って貴様らと我々の人生内容じゃ違いありすぎだろうが!?貴様が『株が大暴落
で破産』的なマスに来たら一体どうするんだ!?どうせ株の意味もわからんだろ
うに!わかったらそのヒレを離せレッサーパンダ!!」
「・・・ていうか、アンタもわかんないでしょ株なんて・・・あとレッサーパ
ンダじゃないわよそいつ。フータ君だけど。二足で立ち上がったりしないわよ。」

バジリスクが気が弱い性格と分かった途端、強気になったデミテルに呆れなが
ら、ジャミルは呟いた。

「あの、じゃあ責めて人間流の友達の作り方教えてくれません?今後の参考に・・・」
「悪いが私も友達は少ないタチだ。部下はいるが・・・」
「でも、そこのインコの方とは友達ですよね?」
「何でこのアタシがコイツの友達なのよ。アタシはね、本来はコイツより上の
位にいる・・・」
「友達じゃない?じゃあ友達以上の関係ですか?」
「え!?」


な、何よ友達以上って・・・失敬ね・・・なんでこのアタシがこんな奴とそん
な関係を・・・

え?でもそんな風に見えるかしら?べ、別に全然全くと言っていい程
嬉しくなんか・・・ない・・・

嬉しく・・・なんか・・・


何故か顔が赤くなり思考が停止してしまったジャミルをよそに、デミテルは淡
々とこう言った。

「いやいや。コイツはただの非常食。なんなら今からでも焼いて食っても別に
いいんだが。」
「あ。そうなんですか。」
「・・・・・・・・・って食われてたまるか!」
「・・・ひどく怒るのが遅かったな今。」
「うるさいわよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ばか。」

ちょっと泣きそうになりながり、ジャミルは最後に小さく呟いた。何故泣きそ
うなのか自分でもよくわからなかったが。

「まあとにかくだ。私はこれで・・・」
「いや、ちょ・・・」
「友達なんてものは、作ろうと思えばいくらでも作れるんだ。問題は作る勇気
だ。その勇気さえあればどうとでもなる。わかったら・・・」


・・・作ろうと思えば作れる?
・・・いや。そうでもない・・・か・・・

・・・・・・・・・・・・。


デミテルは突然喋るのをやめた。何か、心に引っ掛かる感じが彼を襲った。


作ろうと思えば作れる・・・

そんなものは・・・既に友を持っている人間の考えだ・・・

本当に友がいない人間にとって・・・

友が作れない人間にとっては・・・

本当に大変なことなのだ・・・友を作るということは・・・かつての私がそう
だったように・・・


「・・・おい。河豚田。」
「フグタじゃないです。フータです。どこのマスオさんですか。」

デミテルは静かに、足に取り付いているフータを見下ろしていた。まるで、懐
かしいものでも見ているような目だった。

「・・・わかった。」
「え?」
「この世紀の大悪人、デミテルが貴様に友達の作り方のプロセスを伝授してや
ろう。有り難く思うがいいわ!」
「おおお!ありがとう!!」
「ちょっとアンタ・・・んなことやってる場合じゃ・・・」
「黙れインコ。搾るぞ。」
「脅し方が意味わかんないわよ・・・」


十分後、デミテル達は砂漠の真ん中で辺りの様子を見ていた。

やがて、デミテルが何かを見つけた。

デザートフライ。巨大な虫型モンスター。それが三匹程列を成して砂漠を飛ん
でいる。

「いいか。よく聞けフーディン。」
「フーディンじゃないです。フータです。スプーン曲げは出来ません。」
「どっちでもいい。いいか?先程私が言った通りにしろ。そうすればきっと上
手くいく。人間の友達の前にまず異種モンスターの友達作りだ。」
「いや待ちなさいよ・・・ねえ。」

ジャミルの制止も聞かず、フータは砂漠を這い、前進していった。

そんなことが起きているとはつゆ知らず、ドラゴンフライは何気なくユラユラ
と飛びながら雑談していた。

「だからさぁ!なんでわかんないかなぁ!?絶対目玉焼きには醤油なんだって!」
「黙れ外道。ソースに決まっている。何で洋食に醤油かけてんだ。馬鹿じゃね
ーのか。」
「バカバカしーぜ。今の時代醤油でもソースでもねーよ。」
「じゃあ何さ?」
「男は黙って塩だ馬鹿野郎!!塩こそ人類の進化の根本を成す万物を司りし調
味料だぞ。これ以上でもそれ以下でもねぇ!全ては塩に始まり塩に終わりそして
また塩から始まる!そして全てに回帰する!」
「だから何故洋食を塩などで・・・」
「スイマセーン!!」

気の弱そうな叫び声がして、フライ達は後ろを振り向いた。

バジリスクが全速力でこっちに這ってきている。そして叫ぶ。おどおどとした
声で。

「い、い、石にされたくなかったらこの俺と交遊関係を築きやがれコラぁぁぁぁぁ!!
ぶっ殺すぞぉ!?」
「ギャアアアア!?」

フライ達は恐怖に打ちのめされ、全力で逃亡した。

その様子を遠目で見ながら、デミテルは呟いた。

「・・・・・・惜しい。」
「何が惜しいのよ今の!?完全にただの脅迫じゃねーか!?どんな友達作りだ
!?つーか最後『ぶっ殺す』とか言ってたわよ!?何教えてんだ!?」
「自分の得意分野を示すことで友達作りに役立つかと・・・」
「絶対他に役立たせるべき道があったと思うわよアタシは!?絶対!!」


それからさらに十分後、またデミテル達は砂漠の真ん中で辺りの様子を見てい
た。

やがて、デミテルが何かを見つけた。

ハーピィ。腕が翼の女性型モンスター。それが三匹程列を成して砂漠を飛んで
いる。

「よく聞きなさいよ。いい?さっきアタシが言った通りにしなさい。そうすればきっと上手くいくから。人間の友達の前にまず異種モンスターの友達作りよ。少なくともそこの甘党バカよりは賢いかつ成功率が高いわ。」
「ふん。」

デミテルの不機嫌な鼻息も聞かず、フータは再び砂漠を這い、前進していった。

そんなことが起きているとはつゆ知らず、ハーピィ達は何気なくユラユラと飛
びながら雑談していた。

 「ねえどうして?どうしておにぎりの中にツナマヨネーズなんて入れるの?バ
カなの?」
 「バカはあんた。ご飯にマヨネーズがこれがまた合うのよ。ていうか今時常識
でしょ。」
 「おにぎりには普通シャケでしょ?バカなの?」
 「二人ともわかってないわ~。今時ツナマヨもシャケも時代遅れやで。今は・・・」
 「今は?」
 「具無しの塩結び!これに限るで!塩こそ人類の進化の根本を成す万物を司りし調味料。それ以上でもそれ以下でもない!全ては塩に始まり塩に終わりそしてまた塩から始まるんや!そして全てに回帰するんや!!」
 「だったら塩ジャケにすればい・・・」
 「スイマセーン。」

 
気の弱そうな叫び声がして、ハーピィ達は後ろを振り向いた。

バジリスクが全速力でこっちに這ってきている。そして叫ぶ。おどおどとした
声で。

「三万でどうでしょうか!?」
「え?」
「三万でどうでしょうか!?」
「いやあの・・・」
「三万でどうでしょうか!?」
「ちょっ・・・」
「三万でどうでしょうかぁ!?」
「・・・・・・・・・。」

その様子を遠目から眺めながら、ジャミルは呟いた。

「・・・やっぱ三万じゃ安かったかしら。」
「安かったじゃないわぁ!?何金で友達作りさせようとしとるんだ!?つーか
あんな誘い方じゃ完全にただの売しゅ・・・」
「今時の都会の女子高生はあんな感じで小遣い稼ぎしてるらしいわよ。一部だけど。
節操無い時代になったわよね~。アタシが学生の頃は・・・」
「都会の女子高生と砂漠の鳥人を同じ類で扱うな!というかあれではただの売
る春と書いて売しゅ・・・」
「・・・あのぉ?」

口論のうちに、フータは戻ってきていた。困った顔をしながらこちらを見上げ
ている。

「あの・・・『そっちの趣味は無い』って断られたんですけど・・・」
「当たり前だろう・・・まったく」
「でも・・・」
 「でも?なんだ?」
「あの・・・アナタとだったら三万で手を打つそうです・・・」
「・・・・・・。」

デミテルは顔を見上げ、こちらを小声でキャーキャー言いながら見ているハー
ピィを眺めた。

沈黙。そして

「・・・三人で九万か・・・足りるかな・・・?」
「って何財布漁って一人三万で手を打とうとしてんのよアンタはぁ!?」
「いや・・・だが・・・その・・・・・・買えるものは買っとくべきかと・・・それに私も・・・何かアレ・・・堪まっているものはやはり多少なりとも晴らさないと・・・」
「アンタみたいな欲望にまみれた薄汚い大人どもが夜の街にはこびって、罪の無い子供達を裏社会に引きこみ将来を奪うのよこの人間のクズがぁ!?」
「んだコラぁ!?元々の提案者は貴様だろうがこのインコのクズがぁ!貴様な
どインコ界の底辺を半永久的にさ迷い続けるがいい!もしくは私に焼かれて食わ
れろ!!」
「上等よ!もし食われたらアンタの腹の中で消化もされず半永久的に胃の中で
暴れまくってやるわよ!一生腹痛に悩まされ便秘に苦しみ悶え続けるがいい・・・」

結局、この喧嘩で時間を消費してしまったデミテル達であった。

「何かスイマセンでした・・・色々助言して下さったのに・・・」
「・・・まあ、助言と言っても脅迫と金による買収についてしか言っていない
がな・・・」
「ま、友達なんていなくたってね、生きていく上では何の支障もないんだから。」
「ジャミル。それは友達がいない奴が言うセリフだ。」
「う・・・」

図星だった為、ジャミルは何も言い返せなかった。

日が暮れていた。フトソン達は未だ帰ってこない。いや、おそらく二度とこの
場所には帰ってはこないだろう。

 あとで捜しに行かねばならないと思うとデミテルは気が滅入った。この際、フ
トソン辺りは干からびて死んでてくれてても別にいいな、とさえ思った。

 「・・・で?どーすんのよ?」
 「ふむ・・・もうこれ以上は・・・その・・・フトソン達も捜さんとならんし・・・」

 デミテルは申し訳ない気持ちになった。あれだけ大口叩いた自分を、今から殴
りに向かいたくなった。

 それに気付いたか、フータは優しく微笑んだ。が、こんな牙だらけの顔で微笑
みをかけられても正直恐怖なだけである。

「気にかけないでください。協力してくださって感謝してます。それに・・・
人間さんとこんな風に会話が出来るなんて思ってもいませんでした。それだけで
僕は幸せです・・・
 「・・・・・・。」
 「・・・いつか・・・」

 バジリスクの目は口の中にある。デミテルには彼の目を見ることができない。

 だが、彼は感じた。このモンスターは本当に、争いが出来ない目をした、心優しい化け物だ。

「いつか・・・世界中の人間とモンスターがこんな風に仲良く出来たらいいのな・・・」


・・・・・・・・・・・・・・

 「ねぇデミテル?」
「何だジャミル。」

軽く空が暗くなりかけ、砂漠がヒンヤリとした空気に包まれかけた頃。ジャミ
ルを肩に乗せて、デミテルは砂漠をスタスタと歩いていた。バジリスクと別れた
のはほんの五分前だ。

ジャミルは何だか複雑な顔をしている。

自分の立場、人間に喧嘩を売っているダオスの部下が、こんな事を聞くのはよ
くないような気がしたからだ。

「いつか・・・ホントに・・・アタシはそうは思えないし、ありえないと思う
けど・・・・・・来るかしら?」
「モンスターと人間が分け隔て無く生きる社会か?来るかそんなもの。」

デミテルは素っ気なく否定した。ジャミルはデミテルのこの意見に賛同出来な
かった。しなければならない立場なのに。

「人間がモンスターを、モンスターが人間を襲わなくなったら、ゲームとして
成り立たんだろうが。どうやって主人公は経験値を得るんだ。」
「まぁ・・・リアルに考えれば・・・」
「・・・・・・ジャミル。私はな、ダオス様の部下になって良かったと思え
る事が一つある。」

デミテルは空を見上げた。暗く蒼い空に月が見える。今日は半月だ。

「私はずっと・・・いや、世の中の人間の九割がたは今もそう思っているが・
・・モンスターはみんな、ただ人間の肉を欲する野蛮な輩しかいないと思ってい
た。みんな野性の熊のような感じだと。まさか奴らにも社会があり、金があり、
雇用センターがあるなどとは、微塵も知るよしもなかった。あのバジリスクが言
う、人間とモンスターの共存社会ができる時が来たら、それは・・・
世界中がその事実を知った時になるだろう・・・いつになるかわからんが。」
「・・・・・・。」
「私は誰よりもいち早くそのことに気付けた。」

デミテルは急に立ち止まり、後ろを振り向いた。妙な風が吹いたような気がした。

 砂丘を登ったり降りたりと繰り返している為、砂の盛り上がりでバジリスクの
姿は確認できなかった。

「・・・その分、私は得をしたと思っている。ダオス様の部下になって。だか
らこそ・・・」


『デミテル様ぁ♪だぁい好きぃ♪』
『デミテルさん。ロリコンも大概にするんだな』

 
デミテルは、フッと笑った。

「・・・だからこそ、あのバカどもと・・・一緒に・・・」

 

 ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!


無情な炸裂音が、一体に突然響いた。途端、デミテルが見ていた砂丘の向こう
から煙がたち始めた。

いきなりのことに彼らはあっけに取られた。

「何今の・・・?また盗賊が地雷でも仕込んで・・・」
「・・・違う。戻るぞ。」
「え?」
「あの爆発は魔術だ・・・この砂漠で誰かが魔術を使うとすれば、それはモン
スターに遭遇した時・・・そしてあそこにいるモンスターは・・・!」

デミテル達がそこに来た時、強い風が砂を巻き上げ、辺り一面を舞い、覆って
いた。周りは何も見えない。太陽の光をも遮ってしまっている、

やがて、砂が晴れた。そこには魔術を放った者の姿はすでになかった。足跡も、舞った砂が隠してしまっている。

ぐったりと、魚のようなものが横たわっていた。口から血を垂らし、ビクビク
と痙攣し、

 鱗が数枚、引き剥がされていた。

 デミテルは目を見開き、叫んだ。

「おい!大丈夫か!?」
「ちょっ!待ちなさいデミテル!!」

デミテルが駆け寄ろうとした時、ジャミルは思い切り彼の服の裾をクチバシで
くわえて引っ張り戻した。

「今近寄るのはやめなさい!アイツを仕留めた奴はまだ近くにいるわ!戻って
こないとは限らないでしょ!モンスターに名前呼びながら駆け寄ってんのを見ら
れたら、アンタも人型のモンスターだと誤解されてやられ・・・」
「・・・離せ。」
「アタシがちょっと飛んで周り見てくるから・・・」
「離せと言っとるんだ!!」
「!」

デミテルは鬼気迫る目でジャミルを睨み下ろした。彼女は恐ろしさで一瞬体が
硬直し、パタンと地面に落ちてしまった。腰が抜けてしまっている。

デミテルはジャミルから素っ気なく視線を逸らすと、一目散に駆けていった。

ジャミルはキョトンとしながらも、やがてフッと笑った。


ホントにアンタはアレね・・・
ホント・・・

悪人にむいて無いわ・・・


「・・・あれデミテル・・・さん・・・行かれたのでは・・・」
「そんなこと疑問にしている場合か!」

駆け寄り、横にしゃがみ込んだデミテルに向かって、フータは言った。息は切
れ、一部焼け焦げている。

 フータは力無く笑った。

「さっき・・・デミテルさんが去ったあと・・・人間の一団を見つけまして・・・アナタが教えて下さった方法で・・・・・・友達になろ・・・うとしたんです・・・けど・・・」
「おい!喋るな!」

デミテルは叫びながらも、わからなくなった。自分らしく無い。自分がこんな
風に叫んでいるなど・・・

 フータは喋り続ける。

「一瞬でし・・・たよ・・・・・・僕に気付いた途端・・・先頭の人が剣・・
・抜いて・・・僕・・・斬り飛ばされて・・・」
「・・・・・・・・・。」
「気がついた時には・・・後ろに待機してた女の子が・・・・・・詠唱終わら
せてて・・・逃げ・・・よと・・・したけど・・・」
「・・・・・・・・・。」

デミテルはこのモンスターをぶん殴りたくなった。拳を握りしめ、じっと耐えた。


バカが・・・このバカが・・・

モンスターが近寄ってきたら・・・そういう反応をするに決まっているだろ・・・
どうせ貴様は我々と上手く会話出来たものだからてっきり他の人間ともそうなれると・・・

バカ・・・が・・・


「稲妻で・・・全身焼かれて・・・・・・鱗引き・・・剥がされちゃいまし・
・・た・・・」
「・・・・・・。」
「やっぱり・・・無理だったんですかね・・・人間と仲良くなろう・・・なん
て・・・考え・・・」


コイツはただ、友達になりたかっただけだった。

ただ、友達になりたかったから、人間に駆け寄った。

そして、

ただ、モンスターだったから、人間に殺された・・・

ただ・・・モンスターだった・・・から・・・

コイツが・・・何を思って駆け寄ってきたかなど考えもせずに・・・

モンスターだったから・・・ただそれだけ・・・


「やっぱり・・・」

バジリスクの体から、生気が失われていく。それがデミテルにはわかった。

デミテルにはわかっている。このバジリスクはもうじき死ぬ。

緑色の煙を噴いて。一瞬にして。他のモンスターと同じように。

デミテルはずっと疑問に思っていた。何故人、動物は肉体を残し息絶えるのに、モンスターはこんな呆気ないのだろうか。彼はそれが哀しく、淋しく思えた。

「・・・やっぱり来ない・・・のかな・・・モンスターと・・・人間が・・・共存する・・・世界なん・・・て・・・

狩る側と・・・狩られる側・・・
 襲う側と・・・襲われるが・・・わ・・・

この関係しか・・・人とモンスターは・・・繋がらな・・・」
「繋がる。」

デミテルは俯き、短く、ハッキリ言った。

「かつて・・・遥か昔だが・・・人間は肌の色で人を差別した・・・肌が違う
だけで奴隷にし・・・肌が違うだけで殺した・・・・・・だが今は違う。そんな
ことは、この星ではもう滅多にない。そんなことはするのは恥だと、間違いだと
、人々が長い歴史の中で気付いたからだ。
 お前はモンスターだったからという理由で・・・やられた・・・
確かに人を襲うモンスターもいるが、そんなこととは無縁のモンスターがたくさんいるのも私
は知っている・・・私はそんな奴とばかり出会った・・・」

彼は辛かった。ひどく辛かった。モンスターだったから、バジリスクだったか
ら、他族に距離を置かれたこのモンスターと

 かつて、髪の色が変だったから距離を置かれた自分。この二つに何の差があろ
うか。

だが、少なくとも、このモンスターは自分よりもずっと強い。どれほど距離を
置かれようとも、世間一般から無理だと思われようとも

自ら友を作る為に尽力した。

 かつて、不幸な自分に陶酔し、何もせず、己を卑下するしかなかった自分より
ずっと強いのだ。

「きっと・・・くるはずだ」

デミテルは悔しくて悔しくて堪らない。その悔し涙を俯いて隠し、腕で拭き取
る。バジリスクはやんわり微笑む。

「貴様は早く生まれすぎた・・・近い将来きっとくるはずだ・・・モンスター
と人間の共存社会・・・少なくとも・・・

 少なくとも、私のパーティは、既にそんな感じだ・・・」
「・・・そうですか・・・・・・良かった。」

バジリスクは、今度はニッコリと笑った。

バジリスクは嬉しかった。今目の前にいる男こそ

自分が、ずっとどこかにいて欲しかった理想の『人』そのものだったから。

 最期に、そんな人に出会えて本当によかった。

「・・・・・・開けろ。」
「え?」
「口を開けろ。そして私を見ろ。」
「な・・・にを・・・」
「目を合わせあえる友達が欲しかったんだろうが。私がそれになってやると言
っているんだ。」

言うや否や、デミテルはバジリスクの頭を掴み、眼前に持って行った。血の出
過ぎか、頭は既に冷たかった。

バジリスクは力無く首を横に降った。

「そんな・・・ことしたら・・・石に・・・」
「私の気が変わらんうちに・・・早くしろ・・・」
「でも・・・」
「とっととやれ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・はい。」

バジリスクは最期の力を振り絞り、顎を全身全霊で動かし、そして

開いた。

恐ろしい目だった。人の顔程もあり、ギョロリとした一つ目が

血と涙を流して、デミテルを見ていた。

間があった。その間は、彼らの今までの人生で一番長かっただろう。

やがて、バジリスクの目が笑った。別に形が目に見えて変わったわけではなか
ったが、それでも彼の目は笑ったのだ。
誰かと、こんな風に目を合わせあうことが、

優しく、目を合わせあうことが、彼の夢だったから。

「ありが―」

バジリスクは何か言おうとした。だが、言い切れなかった。彼は一瞬にして緑
の煙を噴き、

あっさりと消えてしまったから。他のモンスターと同じように。

デミテルはしばらく無表情だった。だが、やがてフッと笑った。

途端、彼の体は灰色に固まっていった。無機質な灰色の塊に、彼は笑ったまま
変貌していったのだった。

つづく

思うがままにあとがき
次の木曜日からまたしてもテスト週間です。また数週間の間携帯を母親に納品せねばなりません。よって書けませぬ。許して下さいまし。

それにしても、なんでファンタジアのバジリスクって魚なんでしょうね。たいていヘビなのに。

次回の予告は今回はありません。まだ内容があやふやですので。ごめんなさい。

この前ふと思いました。「デミテルは今日もダメだった」を略称するとしたらどう呼ぶのか?

「ハリーポッター」は「ハリポタ」
「ワンピース」なら「ワンピ」
「世界の中心で愛を叫ぶ」なら「せかちゅう」

じゃあ「デミテルは今日もダメだった」なら・・・

・・・・・・・「デミダメ」


・・・なんか・・・・・・なんだかなぁ・・・


次回 第四十三復讐教訓
「未定・・・いや別に『未定』ってタイトルなわけじゃなくてホントに未定なだけです
ごめんなさい」

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