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デミテルは今日もダメだった【47】

「ねえ。邪魔なんだけど」

女の声が、どこかの路地裏に響いた。茶色いフード付きのマントを羽織り、顔を隠している。口元の八重歯だけが見えた。

その湿った路地裏には、柄の悪そうな男達がたむろっている。入れ墨を入れている者。顔がキズだらけの者。ヨダレを垂らし続ける者。

男達はニヤニヤと女に歩み寄った
囲まれる女。しかし、動じる気配は微塵も無い。

「おいおい何様だ?俺ら誰か分かってるか?」
「息の臭い人間ども。」
「おい。だから何様なんだよ?その頭に被ったフード取れや。」
「…アタシが何様ですって?」

女は茶色のフードを取った


角が生えていた


「ジャミル様よ」

復讐教訓四十七復讐教訓『子供の頃 インコとオウムは同じものだと思ってた純粋なあの時代に戻りたくても戻れるものじゃないので今を大切にね』

アルヴァニスタ王国。海辺にあり、世界屈指の人口、活気を誇る国。その城下街の建物群は、ほとんどが白い壁をしている。その為、高台や、城から街を見渡せば、白く、爽快な町並みを一望できる。

そして、この国のもっともの特徴は、エルフをどの国よりも優遇していることだ。国の重要職にすら、エルフを置いているほどだ。なんでも、王族の家系にもエルフがいたらしい。


そのアルヴァニスタは、今日はお祭り騒ぎだった。通りの端には露店が並び、大勢の人間がひしめき合っている。

大通りはさらに凄かった。一歩間違えれば将棋倒しも起きかねない。それはもちろん人の多さも原因の一つだったが、最大の原因は別だった。

大通りの中心の道がロープによってスペースが作られていたからだ。人々は大通りの端に追いやられていた。簡単に言ってしまえば、ディズ〇ーランドのパレードを待っているような状況。

そして、ディズ〇ーランド同様、人々は前に座ろうと陣取り合戦をしている。

「おい!そのスペースはウチが取ったんだ!!」
「いや!うちだ!!」

場合によっては殴り合いにまで発展する。

彼らが何故そこまでして前に陣取ろうとしているのか。答えはすぐにわかった。

「おい来たぞ!」
「きゃー!こっち向いてー!!」
「お誕生日おめでとうございます!!」

「レアード王子!!」

大通りの真ん中を、兵達に守られながら進む、鮮やかな赤いマントを羽織った一人の男。

レアード=アルヴァニスタ。この国の王の息子にして、やがてはこの国を背負って立つ事になる未来の王だ。

飛び交う民衆の声に、彼は爽やかな笑顔で応対する。

街で彼の事を聞くと、大低の人はこう答える。

「レアード王子?ああ!あの方は素晴らしい人だよ。学問、武術に優れ、そして最上級の美貌を誇る、容姿端麗かつ、才色兼備!!まさに完璧な人さ!」

少し目に掛かる程の長さの、水色のサラサラヘアー。同じく目も透き通った水
色で、吸い込まれそうになる。肌は少し色白で、透き通った肌。


彼の誕生日を祝う祭典は、終わりに近付いていた。同時に、別のモノが近付いていたが。

「…くさい。」

乱れ立ち並ぶ人々の中に、一人、フードで顔を隠す者がいた。他の人々は鮮やかな服装をしている中で、その者だけ浮いていた。

人々は王子を見ようと我先にと前に出ようとする。しかしその者は淡々と眺めているだけだ。

その者に、またもフードを被った者が一人、人の群れをかい潜って近づいて来た。

「…ジャミル様。もうすぐレアードは城に入ります。」
「…はいはい。」

ジャミルはめんどくさそうに返事をした。

「…ジャミル様?その手は…。」

近づいて来た男は、彼女の手に目をやった。真っ赤だった。

「…さっき路地裏でチンピラ共が喧嘩売ってきたから、殺した。」
「あまり目立つことは…。」
「大丈夫よ。死体は残らず」


「食べたから。いいじゃない。しばらく人間なんて食べる暇無い生活強いられるんだから」

指先から滴る血を、舌でペロペロと拭き取り、彼女は言った。人々は王子を見るのに夢中で、それに気がつきはしない。それとも、見えないのか。

「ところで…。」

「アンタの口についてるの何。」「え?」

突然言われて、男は口元を触った。

「なんで青のりがついてんのよ。」
「………わ、私も人をですね…。」
「人食って青のりがつくか。あと、袖の赤いのは?」
「ああ。これフランクフルトのケチャップ………あ。あっちにクレープ売ってたんスけど、買ってきましょうか?あ!その横に水風船が………」
「………。」

パレードは終わりを迎えようとしていた。鼓笛隊を引き連れて歩くレアードは、城の門に近づいてきている。門には出迎える兵士。そして

赤茶色の髪を縛った、耳を尖らせた男。

宮廷魔術師、ルーングロムがいた。

突然、拍手が湧いた。王子が腰の剣を抜き、剣技を披露したのだ。

それが下手であれば、民衆の嘲笑を買ったかもしれないが、その技はとても鮮やかで、素人から見ても素晴らしかった。どこをとっても彼は完璧なのだ。

「…おや?」

王子が剣をしまった時、何かが空から近づいて来た。周りの兵士達は一瞬身構えたが、すぐに警戒を解いた。何故なら

ただの、インコだったからだ。美しいヒスイ色のインコは、王子の肩にとまった。

民衆はまたしても湧く。

「王子は鳥をも虜にするようだ。」
「ホント完璧だよな…。」
「もうアレだな。完璧過ぎて逆に腹立ってきたよ。」


誰が虜よ誰が。


ジャミルは、王子の肩の上でそう思った。王子は彼女の頭を爽やかに撫でる。

「綺麗な毛並みだ…飼われていたのかい?」
「………。」


…ちょろいものね

人間て、どうしてこう、小動物に弱いのかしら。


「ジャミル様、行ったか?」
「ああ。行った。」

フードを被った二人の男が、その姿を見ていた。一瞬フードの下から羊のような角が垣間見えたが、人々は鳥と戯れる王子様に夢中だ。

「…ん?お前その頬どうした。」
「ジャミル様にひっぱたかれた。青のりのせいで。」
「アホが。」
「そういうお前だってワタアメ食ってたじゃん。」
「ワタアメは証拠が残らん。」
「ズリーよ。俺だけかよ。」
「…お前、ジャミル様に叩かれた時なんか言ったか?」
「そりゃもちろん」

「もっと殴って下さい。」
「この変態が。」
「変態じゃない。Mだ。」
「あーそーかい。」


レアード王子万歳!!

王子が城の門をくぐる直前まで、民衆の声が彼を追った。彼は笑顔で振り向き様に手を振っていた。

ジャミルは、心の中で悪態をついた。


…なんかもう、完璧過ぎて反吐が出そう。

でも、コイツがこの姿でいられるのも時間の問題。

アンタはアタシに操られるの。そして、この城はアタシの支配下に陥り

ダオス軍とミッドガルズとの戦争に介入出来なくする。それがアタシの仕事。

アンタがアンタでいられるのは

今日で最後よ。完璧王子様。


王子は門をくぐり、そして

城の門が、閉じた。

「つーかーれーたああああああああああっ!!」

レアードは思い切り、その場で床に倒れ込んだ。

肩にいたジャミルは倒れた衝撃で吹っ飛び、壁に叩きつけられた。

兵達も、メイド達も、ルーングロムも、特に驚いた様子もなく

大理石の床をゴロゴロと転がっていく王子を見ていた。

「あー。ホントかったるい。なールーングロム。」

レアードは転がってルーングロムの足元まできて言った。ルーングロムはコホンと咳ばらいした。

「王子。民から見えなくなった瞬間に『裏』に戻るのは自重してください。」
「いーだろ。城の人間はみんな知ってんだから。」
「見てください。あそこで新入りのメイドと兵士が口あんぐりですよ。」

見れば、その言葉の通りの光景があった。一人のメイドは顔が硬直し、一人の兵士は顎が外れてるんじゃないかと思われるぐらい口をあんぐりさせていた。

しかし、その周りの兵士とメイド達は、別に驚きもしていなかった。

レアードはケラケラと笑った。

「みんな最後には慣れるからいーんだよ。あ!ところでルーングロムぅ。スゲーかわいい娘いたんだよスゲーかわいい娘!!」

「やっぱアレだよな。長黒髪にエプロンて究極的萌えだよな。エプロンに果物屋って書いてあったんだよ!ちょっとどこの娘か調べてくれな後で。」
「調べてきたところで会えるわけでも無いでしょう。」
「詳細な情報が無いと脳内であんなことそんなこと出来ないだろうがあああ!!」

寝そべりながらそんなことを叫ぶ王子の頭を

ルーングロムは思い切り足で踏んだ。

「いたたたっ!!テメッ、打ち首にすっぞ!!」
「アホなこと言ってないで早く立って下さい。これから遅い昼食なんですから。」
「わーったから!わーったから足どけろ足!!臭い!!」
「…………。」
「ああああっ!嘘です!!今のは嘘です!臭くないです!!ミントの香りです!!だから体重乗せないでっ!!」

ルーングロムは足を避けた。レアードはフラフラと立ち上がった。

「ったくもぅ、加減を覚えてくれよ。あ。そこの君。」
「え?あ、はい。なんでしょう王子様。」

先程の硬直していた新人のメイドを、王子は呼んだ。

メイドは急いで駆け付けた。次の瞬間

「きゃっ!?」
「ピンクか…」

ドゴッ

盛大にスカートをめくりあげた王子の頭に、宮廷魔術師は思い切り踵を落とした。

「いっつぁ!?お、お前普通踵落としなんて………」
「ほら。行きますよバカ。」
「いたたっ!!耳引っ張んな耳!!」

慣れた手つきで、ルーングロムはレアードの右耳を掴み、階段へと連行していった。

「…まーいいか。めくる時にふくらはぎ触れたし………痛い痛い痛いっ!!」

王子は悲鳴を上げながら階段へと消えていった。

「…先輩。アレってホントに」
「レアード王子だ。新人兵士。『裏』のな。『裏』と言っても、『裏』が本当なんだがな。」

さっきまで口をあんぐりさせていた新人兵士の肩を、先輩兵士は叩いた。


―――――――――――――――――――。

王子があんな風になったのは、十三の時だったか。元々あの人は、歴代王家稀に見るやんちゃ坊主だった。まぁそれでも、子供はそれぐらいの方がいい、とみんな思ってたんだが

十歳になってもあの人のやんちゃっぷりが止まらない。普通、王家の教育受ければいやがおうでも落ち着いた賢い感じになるはずなんだが。メイドの下着盗むは、城から逃げようとするわ。

ずっとこのままだと、いずれ国民に『アホ王子』とか『バカ殿』とか言われかねない。だから王は

宮廷魔術師、ルーングロム様に徹底的スパルタ教育をするよう命じた。王子の為なら、どんな愛の鞭でも叩きつけていいと、王は言った。子を思うが故に。

三年間教育は続いた。もうホント、物凄かったらしい。ルーングロム様の教育は。

で、三年後、彼は完璧になった。

学問、武術に優れ、そして最上級の美貌を誇る、容姿端麗かつ、才色兼備。まさに完璧。

それに嘘は全く無い。

ただし、それは民衆の前だけな。

どうも、ルーングロム様の言葉を変に解釈してしまったらしい。

『民にそんなぶざまな姿は見せられませんよ!王子!!』

『民』に、アホな姿を見せてはいけない。だから

『民』以外だったらいいよねコレ?みたいな?


…結果、二重人格になった。民、よその国の客とかに対しては『表』、城内では『裏』だ。

皮肉なことに、スパルタ教育後の方がより一掃バカッぷりが強くなっちまった。一回、城にメイド喫茶作ろうとしたからねあの人。グロム様に揉み消されなかったらマジでできるところだった。


「…………。」
「頭は確かにいい。テスト受けたらほぼ満点だ。武術も一級品。でも、テストは無理矢理受けさせないと逃げるし、武術はすぐ武器で遊ぶし。一回、槍の授業の時に『槍投げだ~』とか言って思い切り槍ぶん投げたら、大臣の額にぶっ刺さって大変なことになったよ。王子じゃなかったら打ち首だよ。」
「…そんな人がいずれこの国を背負って立つんですか。」
「…ま。王になれば変わってくれると信じてはいるが。どーだかな。俺はアレはアレで好きなんだが。」

「…なんとまぁ。そんな裏事情があったわけか。」

雑談しながら通路を歩く二人の兵士の背中を見ながら、ジャミルは呟いた。背後には、フードを被った男が二人。

「どうしますかジャミル様。あんなアホ操って意味あるんですか。」
「アホでも王子であることには変わりはないわ。奴の命を掌握することに意味があるのだから。アンタ青のりまだ口についてるわよ。」
「これは先程の青のりではなく、別の青のりです。あの後タコ焼きも食べたんです。」
「死ぬか腐りなさいバカ。」
「もっと言って下さい。」
「いい加減にしろこのM。」

青のりの男の頭を、もう一人の男がひっぱたいた。青のりの男よりも背が高く、声に落ち着きがあり、しっかりとしていた。目は少し半目だ。

「いった!お前に叩かれても気持ち良く無いんだよあほミドウ!」
「黙れ青のりクドウ。」
「バカミドウ!」
「くそクドウ。」
「モリゾウ!」
「キッコロ。」
「うっさいわよお前ら。」

ジャミルが翼で思い切り二人のフードを叩きあげた。

赤い髪の中から羊のような角が生えている。

腰には幅の広いサーベル。腰より上には鎧を着込んでいた。

「アレス族は何?アホしかいないの?」
「アホはこのMだけです。ジャミル様。」
「アホじゃない!Mですよジャミル様!」
「わけがわからん。」
「………。」


……なんでアタシの部下ってこう、アホばっかし…

この前城で会ったダオス様の新しい下僕の男には、頭良さそうなモンスターばっか与えられてたのに………ゴーレムとか…アイツら見た目の割に賢いのよね…

あの男も憐れねぇ…ダオス様に操られて、自分はそのことに気付くことも出来ない…なんて名前だったかしら。

確か……デ…デミテ

「やべっ!誰か来る!隠れろ!!」

青のりをつけたアレス族、ミドウは小声で叫ぶと、その場から消えた。半目のアレス族、クドウも続いた。

次の瞬間、ホバーリングしているジャミルを、誰かが背中から引っつかんだ。ジャミルはびっくりして振り向いた。

アホだった。

「やっと見つけた。どこ行ってたんだぁお前。」

レアードは楽しげに言った。お前が床に転がった時に吹っ飛ばされて壁に叩きつけられたんだよと、ジャミルは言ってやりたかったが、そういうわけにもいかない。


仕事は夜…コイツが寝た時。

アンタはこのジャミル様の呪術に…

「いやぁ。それにしても見事な毛並みの」

「オウムくんだな。」
「……。」

…えーと。まず『くん』じゃないわよ。メスよメス。確認しなさいよ。いや、確認されても困るんだけど。いやそれ以前にアンタ………


「あ!そこのキミ!大丈夫大丈夫!もうスカートはめくんないよ!!」

先程のメイドを見かけて、レアードは駆け寄った。メイドは一瞬ビクリとしたが、無視するわけにもいかないので急いで頭を下げた。

レアードはケラケラと笑った。外で見せていた爽やかな笑顔とは全く違う、ひょうひょうとした笑いだ。

「ちょっと厨房までこれ持ってってくれよ。」


「食べるから。」


ええええええっ!?

食べ…オウムを食べ……いや、オウムでもないんだけど……えぇええっ!?

「オ、オウムを食べるんですか?」
「世の中ハト料理だってあるんだぜ。珍味かもよ?あ、君も食う?」
「というかあの、それインコじゃ………」

「…あの。王子。」
「ん?なに?」

メイドは、意を決したように改まると、言った。

「私は、その、王子の『表』のお顔しか知りませんでした。今のような、あの、」
「気さくなプレイボーイみたいな感じ?かかかかっ!」

レアードは馬鹿みたいに笑った。というか馬鹿だった。

メイドは圧倒されながらも続けた。

「…外の人間、つまり、国民の人達は、その、昨日までの私と同じように王子の『表』しか知りません。」

「あの………どうしてそのように」
「こんなアホみたいになったか?それは…」

ふと、レアードは目を細めた。少し憂いが満ちた、

『表』とも『裏』とも違うような、切ない目だった。

そして、レアードは明るく言った。

「キミは、自分の父親が大臣の妻と浮気してたり、母親が生みの親ではなかったりしたら、ひねくれなかったかな?」
「…え?」
「キミはまだここに来て日が浅い。」


「この城はね。外の国民が思ってる以上に」


「キレイじゃない。いずれ、キミも知るだろ。かかっ。」

レアードは最後にまた陽気に笑うと、ジャミル片手に廊下をスキップしていった。呆然とするメイドをその場に残して。


――――――――――――――――――。


「…なによコレ。」

月光照らす平原で、ジャミルは目を覚ました。少し向こうでは言い合いが聞こえる。

「なんで貴様ごときがこの余ったコロッケを食う権利を有するというのだこの白饅頭がぁあ!!主人に譲渡しろ主人にぃ!!」
「世の中は弱肉強食なんだぁあああ!!」
「弱肉は貴様だろうがあああ!私が強者だぁあ!!」
「僕の肉食えるものなら食ってみろなんだなあああ!!おそらく見ただけで死ぬんだなぁああ!!」


「…って人が寝てる間に勝手に晩飯食ってんじゃないわよアンタらあああ!!」


つづく

おもうがままにあとがき

tauyukiseさん、灰色さん、コメントありがとう。

今回、もう一週間早く投稿するつもりだったのに、肺炎にかかってダメでした。

灰色さん、「…ただ、無理をして体調を崩さぬようお気をつけください。」

言うの遅いです(笑)。崩れたの直した後に言ってくださりましても。

http://hishiki.s9.xrea.com/cgi-bin/rakugaki/rakugaki.cgi?mode=resp;no=1735
↑寝てるとき描いた落書きです。デミテルとジャミルです。汚くて下手ですみません。

これ描いたら急にジャミルがかわいくてしょうがなくなってきました。

人型のほうをです。ええ。鳥の方ではないです。鳥の方は焼いて食べたいです。何を書いてるんだ自分は。


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