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デミテルは今日もダメだった【57】

第五十七復讐教訓「目には目を、歯には歯を」

甲高い悲鳴が森に響いていた。それはまるでジェットコースターに乗った女性の雄叫びのようだ。
実質、状況的にはかなりそれに近い状態ではあった。

違うのは、走っているのがネオンのように光る月で、乗って叫んでいるのがインコであることだ。

ジャミルはもう、一時間近くこの状態だった。リアルな話をすると、四か月近くこの状態だった。
しがみついている翼を月から離せば問題はいとも簡潔に解決するのだが、完全に乗り物酔いし白目を剥いて頭をガクガク揺らしている彼女に、そこまでの考えが及ぶことはなかった。頭の中を巡る考えはただ一つ。


全部あの甘党馬鹿のせいだ!


アイツさえいなければアタシはこんな目に遭わずにすんだのだ。見つけ次第八つ裂きにしてやる。その怨念だけであった。
一刻も早くあの男に会いたい。早く見つけてこの丸々三話分の自分の不幸の全責任を押し付けてやるのだ。ああ早く会いたい!会ったら顔面に鉤爪を叩き込んで土下座して謝らせて『し、仕方ないわね!今回は特別に許してあげるわよ!』的なツンデレ的セリフをかまし、奴の安堵の表情を見

「あいたぁ!?」

奴の安堵の表情が頭を過ぎりかけた時、疾走する月が急停止した。ジャミルはポーンと孤を描いて飛び、木にぶつかった。そしてズルズルと逆さまに落ちていった。

「やい!そこのインコ!」

酷く近くで小生意気な声がした。ジャミルは逆さまのまま、自分と同じくらいの大きさの子供が目の前で仁王立ちしているのを見た。
体長十センチくらいの男の子が、こちらを睨み付けている。

「何でお前ルナ姉ちゃんの車に勝手に乗ってんだ!!これはルナ姉ちゃんのだぞ!姉ちゃんは!?」
「………知らないわよ。それより、そこどいた方が身の為よ。」
「なんでさ!?」
「今から吐くからよ。うっ」

次の瞬間、今度は子供の高い悲鳴が響いた。

――――――――――――――――――――

「………――だから知らないわよ。アンタの姉ちゃんの話は。」
「姉ちゃんはコレ無いと家に帰ってこれないんだぞ!?勝手に乗ったの謝れ!あとボクの靴をこんなにしたのも謝れ!」
「はいはい悪かったわよチビ…あー気持ち悪い………えーと」
「ガキじゃない!アルミテミスだい!!」

美しい小さな湖に足を突っ込んでバシャバシャと洗いながら、アルテミスは怒った。少し離れたところで、ジャミルはグビクビと湖に頭を突っ込んで水を飲んでいた。

「ふぅ…というかアンタなに?どこのモンスター?」
「失礼だな。ボクはモンスターなんて汚らしい奴らとは違うぞ!」
「足はどのモンスターよりも汚いことになってるわよ。」
「お前がしたんだろうが!!」

アルテミスは足を洗い終わると、濡れた小さい小さい靴を、さっき拾ってきた小枝の先に挿し、干し始めた。

「ああもぅ……姉ちゃんの帰りが遅いから探してたら、こんな変なインコが姉ちゃんの車を………」
「好きで乗ったわけじゃないわよ。あんなもの、例えフリーパス貰ったって二度と乗るもんですか……それより……」

ジャミルは長時間の絶叫マシーン乗りで、完全にテンションが死んでいたが、それでも話を続けた。

「アンタのルナ姉ちゃんって……もしかして精霊の?」
「ん?そうだけど。」
「ずいぶんあっさりね。隠したりしないの?」
「お前のところじゃどうか知らないけど、ルナ姉ちゃんはここらじゃ有名だよ。モンスターにだけだけど。」

そう言うと、アルミテミスは得意げに笑った。

「ルナ姉ちゃんは自分の住んでる塔をモンスター達に無償で貸してるんだ。身寄りの無いモンスターも預かってる。ルナ姉ちゃんはとっても優しいんだ…」

「それにすっごい美人でさぁ………あんまり笑わないけどそこが逆にさぁ………それとさ」
「ああもうわかったから。黙りなさいシスコン。」

聞きたいことは聞けたので、ジャミルは眉間に翼の先を当てながら、適当にあしらった。アルテミスはムカッとした。

「ボ、ボクはシスコンじゃないぞ!」
「じゃあ何よ。」
「強いていうなら騎士だね。姉ちゃんの。」
「わかったわかった。んじゃ頑張ってお姉ちゃん捜しなさい。きし麺。」
「名古屋名物!?」


えーと……頭がまだクラクラしてるからいまいち難しいこと考えれないけど……

とりあえずアレよ……デミテルよ……きっとアイツオアシスで待ちぼうけをしてるはずだから……早く行ってやんないと………ん


ジャミルはふと、アルミテミスからじっと見られているのを感じとった。

「…なによ。」
「お前、もしかしてモンスター?」
「あら。よくわかったわね。」
「これでも妖精の端くれさ。魔術使われてるかくらい見分けられるよ。で、誰にそんなチンケな姿にされたんだ?」
「いや、自分でなったんだけど。」
「へぇ。んじゃ戻って見せてくれよ。」
「いや戻れないんだけど。」
「………。」

しばらく沈黙があった。やがて、アルミテミスはプッと吹き出した。

「だっせ~♪」
「なんですってぇ!?ヘド臭い足した妖精なんぞに言われたか無いわよ!?」
「だからお前がしたんだろうが!!」
「このスカ〇ロ妖精が!!」
「誰がカストロだ!!」
「それキューバの人でしょうがァ!!」

言い合っているうち、ジャミルのテンションは徐々に回復していった。ジャミルはフンと鼻を鳴らした。

「いい?このアタシが元の姿になったらねぇ、アンタなんて一撃で悩殺なんだから。アンタのルナ姉ちゃんなんて足元にも及ばないんだから。」
「なんだとぉ!?お前ルナ姉ちゃんのスリーサイズ知らない癖に何言ってんだ!」
「じゃあ言ってみなさいよ!その数値真っ正面から撃破してやるわ!アタシのアタックポイントはまずバストが………つーか何でアンタは姉ちゃんの知ってんのよ。」
「知らない弟がどこにいる!?」
「五万といるわよ。」

愛も度を越えたらただの変態よね。と、ジャミルは思った。アルミテミスはボリボリ頭を掻いた。

「いや、そんなことは今はどうでもいいや。」
「いや結構どうでもよくないわよ。場合によっちゃ裁判沙汰よ。」
「なんなら戻してやろうか?お前の体。」
「『戻す』行為ならさっきもうやったからい……」


「…なんですって?」
「ただし、条件あるけどね」


――――――――

空が青かった。木々がしげっていた。太陽が光っていた。塔がそびえていた。

森の奥深くに抜き出たその灰色の塔はとても高い。苔がこびりつき、長い年月をそこで過ごしていた事が伺えた。
また、塔の側面の壁には十二星座の絵が彫られたレリーフが至る所にあった。

そして、そこから百メートル程離れたところに、その男はいた。

青い髪。けれど、前髪が一部赤く染まっている。尖った耳。赤い半袖シャツを着て、両肩に鉄のショルダー。

その男の名は

「デミテル。と、お見受けいたす。」

「汝の命、依頼によりこれより頂戴いたさん。」

赤黒い布を纏ったニンジャは、刀を抜いた。

「…ふん。アルヴァニスタの犬か。聞いたことがある。」
「……」
「差し詰め、国のお偉方に金を詰まれてきたというところか。しかし、ぬるいな。」
「……」
「この、ダオス様の一番の部下にして、最強最悪の悪人、デミテル相手にたった一人とは。あまく見られたものだ。ふはーはっはっはぁ!!」
「…一つ良いか。悪人」
「なんだ?命ごいか?」
「こっちを見て喋れ」
「……………」

随時右後に首を回して喋り倒す悪人に、ニンジャは淡々と言った。

デミテルは怒鳴った。自身の体にピッタリついた木に向かって。

「やかましい!!誰のせいでこんな首になったと思っとるんだこの全身あんこ色忍者が!!貴様がホントにあんこだったら残すところなく全部食ってやるわ!!」
「主が勝手に木に頭をぶつけただけでござろう。」
「貴様が焚きつけたコヨーテどもが原因だろうが!!」
「前を見て走らなかった主が原因。」
「前ばかり見てるとなぁ、後が恋しくなるんだ馬鹿者が!!」
「何の話………」


いかんいかん。ペースに乗せられては。情報通り、妙な間合いと勢いで口喧嘩をする男だ。こちらも乗せられてしまう。


ニンジャは自分の額当てをコツンと叩いた。ニンジャはこれ以上喋ると戦意が鈍
る。
そもそも、ニンジャはこれほど標的と喋ったことなど無かった。今まで自分が仕留めてきた標的はたいてい命ごいの言葉しか吐かない。それなのにこの男と来たら自分の命より回らない首を気にしている。どれだけ余裕なのだ。いや、首の話を始めたのは自分ではあるが。

落ち着け。忍は常に平常心。無感情。己の魂押し殺し、冷徹に冷静に判断する。情などありはしない。

今すぐ、この男を仕留めよう。同行していた黒マントを羽織った女はどこかに行ったようだが、別に放っておいてよいだろう。この辺りに助けを呼べる民家は無い。

ニンジャは刀を真っすぐ、デミテルに向けた。デミテルは息を飲んだ。


まてまてまて!四ヶ月ぶりに再開しておいて殺されてたま…


生々しい考えが過ぎった時だ。細長い光りのラインが、一瞬デミテルの前に落ちた。本当に一瞬で、一呼吸おいてからでなければ、

首の鎖が切れてることに気がつかなかった。

というのは、首が真っすぐだったらの話で、常に右後方を睨み続ける馬鹿は、鎖が音も無く切れたことに目ではわからなかった。

目ではわからなかったが

「あっちゃああっあ!?」

光のラインが自分の尖った耳を掠ったことはわかった

「耳がぁ!?耳の皮膚がただれ」
「なっ」


今のは光の魔じゅ…


とニンジャが考えた矢先。何発もの細長い光のラインが空から槍のように降り注いだ。ニンジャは急いで身を伏せたが、すぐに気付いた。この光線は自分を狙っていない。

光線はデミテルと忍者の間に降り注ぎ、土煙を上げた。目くらまし……

「ぎゃあああ!!クリティカルヒットしたぁ!!」
「ご、ごめんなさい!土煙で見えなくて…は、早くこちらへ!!」

どうやら『レイ』はデミテルにだけ直撃したらしい。『クリティカルヒット』というのは具体的にどのへんに当たったのだろうか。


―――――――――――――――


「ああ…死ぬかと思った………普通ゲームの性質上味方に魔術は当たらん作りになっとるものだろうが…………」

デミテルはクリティカルヒットした箇所を抑えながら、森を走っていた。時々枝を踏んだ音がする。

デミテルは以前首を曲げながら怒鳴った。

「貴様なぁ!どうせ助けるならもっと安全な」
「前危ないです。」
「げぶえ!?」

デミテルはまた後頭部を太い枝にぶつけた。

「ぜぇぜぇ…というか貴様、九死に一生の今の私にまたおぶってもらうなど笑止千万…」
「また危な」
「ハァッ!」

同じ目に遭うものかと、デミテルは頭を低くした。そして、脇腹に太い枝の幹のブローを喰らった。デミテルは悶絶して止まった。

「あ………が……」
「横に避けてと言おうと…」
「もういい…もういいわ………」

デミテルは涙目になりながら、その場にどっかりと座った。

「とにもかくにも、このまま逃げ切ることはできん。あいつを迎撃せねば。」
「え…でもこのまま…」
「奴はプロだ。このまま逃げ切れるものか。というか、貴様がさっきのレイで奴を倒せばよかったんだまったく………」
「私は争いを好みません。」
「何が好みませんだァ!?どこの争い好まん奴が、味方の急所にレーザー叩き込むんだエエこら!?」

デミテルは本気で怒った。

「お前………これ………私の急所が使えなくなったら貴様絶対責任取れよ!!」
「は、はい……」

どんな責任を取ればよいのかルナは悩んだが、妙案は無かった。一方デミテルは頭をポリポリと掻きながら、頭の中を整理した。


落ち着け……ニンジャ一人など、ダオスガード三体相手にするよりはずっとマシだ……だが、私は前が向けない。それは奴に相当なハンデを与えてしまっている。

奴は素早く、正確に、一撃で私を仕留めるつもりのはず。なんと言っても暗殺のプロだ。こちらの攻撃を避けられて隙を見せれば、その隙一つでやられる。

…こんなところで私は死ぬつもりはない。復讐の為に……

大体アレだ………こんな人知れぬところで私が死んだら………


デミテル様ぁ♪だぁい好きぃ♪
デミテルさんいい加減死んで欲しいんだな。
ちょっとデミテル!!誰が非常食よ誰が!!
デミテルさん?お菓子は一日三回までです。体に悪いですよ。


あの馬鹿どもの管理を誰がするというのだ……まったく………というかちょっと待てフトソン。どさくさに紛れて何を言っとるんだコラ。またイラプションで黒饅頭にしてやろうか?

落ち着くんだな。ロリコン。
誰がロリータコンプレックスだぁぁぁ!!

――――――


まったく。面倒な仕事を請け負ったものだ。


明らかに人が歩いたあとが残る道を辿りながら、ニンジャは考えていた。


あんな小物、我々が仕留めることもない。自分達でどうにかすればよいのだ。大国の腐れ王族が。己の命可愛さに過剰過ぎる処置をする。その過剰な気配りを国の統治に廻せばよいのだ。
本当にあんな男が町一つ灰にしたというのか?信じられぬわ………

こんなぬるい仕事を押しつけ追って……やはり私は一族の邪魔者か……

……奴はおそらく待ち伏せをしてくるだろう。まさか逃げ切れるとは思ってはおるまい。
奴は魔術使い……ならば、長い詠唱を使った一撃を避ければあとは……まさか上級呪文など、あんな小物には撃てまい………

むっ。


ニンジャは見つけた。距離は五十メートル弱。木々の向こう側、

直線上に、ハーフエルフが人差し指を口元にあてて、何か唱えている。
二人の間に、障害物は何もない。

さあ来い。小物。どんな魔術であろうと、拙者は完璧に避けられる。そういう鍛練を我ら忍びは受けてきた。標的がエルフである場合の対処など、たやすい。

さぁ、来い。


………なんだ?何も来ない?馬鹿な。奴は唱え切っているぞ。奴は肩のショルダーを前に突き出し………
………む?よく見たら足元が乳白色に光っ

次の瞬間、デミテルの体がニンジャに向かって弾け飛んだ。あまりに突然で予想外だった為、ニンジャはデミテルのショルダータックルがみぞうちにめり込んだことに気付くのに、数秒掛かった。

トラクタービームで吹っ飛んできたデミテルの体に、ニンジャは突き飛ばされた。数センチ体を浮かせながら、二人は低空を高速で突っ切っていく。

デミテルに押されながら、ニンジャは次々と背中で、木々の太い枝を薙ぎ倒した。見てるだけで背中に痣ができそうだ。

途端、森が開けた。森を抜けた。二人は未だ進む。二人の行き先にあるのは、古く、高い、巨大な塔。

そこは塔を中心に、円状に森が開けていた。塔の周りには、塔以外の崩れた建物が垣間見えた。

それらを横目に、デミテルは十二星座の塔の冷たく硬い壁面に、ニンジャを思い切り押し潰した。鈍く潰れた音が、塔の立つ森に響いた。

「………ふぅ。肩が外れたかと思ったわ。」

デミテルはゆっくり、ニンジャから離れた。

「いかに貴様でも、肉弾丸が来るとは思わなかったようだな。」

デミテルはニヤリと笑った。

「ふん。暗殺のプロといえど、この世紀の大悪人デミテ」
「笑止。」

ニンジャが、
太い丸太に代わった。

デミテルは死角から気配を感じ、急いで鞭を抜こうとしたが、遅かった。腕をしめ上げられ、同時に首をしめられた。

「やっと顔を合わせられるな。デミテル殿。」

後ろを向き続けるデミテルの顔の前に、ニンジャの顔があった。鎖で首を抑えられる直前の時にすこしだけ見えた、赤黒い布。

顔は覆面で目しか見えない。金色のキレイな目だった。

「な………」
「先程の虚に虚をついた一撃は実に見事。まさか魔術をあのように使うとは。まったく過去に例がない。確かに拙者のみぞうちに入ったぞ。」

「トドメのこの塔への一撃を変わり身で避けれねば、こうして立っていることは叶わん…げほごほ!!」

ニンジャは苦しそうに咳をした。

「ぐふ!刀は突き飛ばされている間にどこかに無くしたらしい……して」

ニンジャの腕が、デミテルの首をより強くしめた。

「おあ゛…!?」
「このまま息の根……止めてやろう……」
「…………………」

デミテルは意識が朦朧とし始めるのを感じた。首が曲がっているおかげで上手く絞められないのか、気道を通らなくなる空気の量の増え方はひどくゆっくりだった。故に、余計に恐怖を感じた。


いか………おわ………


「見ろ。貴様の女がお前の最期を見に来ておる。」

ニンジャは顎でしゃくった。デミテルが目を向けると、朦朧とした視界の向こうに、月の精霊が茂みから覗いているのが見えた。

「あの女が魔術を人に向けて撃てぬのは、先程の事で証明済みよ。もっとも、撃てたとして、貴様も巻き添えを食うがな」


馬鹿…が…

私を助けるかどうか悩んでいるのか?馬鹿め………

『私は争いを好みません』などとうたうエセ平和主義者が、争いを止められるものか。

『いいか。私があのニンジャを待ち伏せするから、貴様は隠れてろ。』
『私も何か…』
『貴様の助けなどいるか。』
『私が彼を説得します。争いは…』
『いい加減にしろ。聞き飽きたわ貴様の妄言は。』

『わからんのか?世の中にはああいう殺しを仕事にする輩が確実に存在する。貴様のように花見ながら『みんな花のようになればいい』などと抜かすのは、ただの現実逃避だ』

『世界が世界である上で、争いや黒く汚いモノは決してなくならん。それら全てを話し合いで解決など死んでも不可能。』

『争いを争いで止めねばならん時というのは、確実にある。それは絶対に避けられん…』

『貴様はそれを無くしたいんじゃない。それから逃げたいだけだ。』

……散々説教を垂れたら、黙り込みおって。

何が………世界平和だ……

人は争い続ける……争って、奪い合って、殺し合って……

そして………

『デミテルさん……どうして』

『どうして………お父さんとお母さんを………殺したの………?』


死ぬ程後悔していく………それが世界だ……………

それが………人だ…………………


私は争いを好みません。

ルナは、茂みの中から、デミテルの意識が遠退くのを見ていた。

人が人を殺す様は、何度見てもつらい。争いは、醜い。

かつて、古代に、世界中に毒をまいた者達がいた。あの時私はどうしても我慢できず、地表に降り立った。
私は彼らに話をしようとした。けれど、捕えられて、何もできず、結局毒は世界にまかれた。
私は、何も出来なかった。

昔、精霊王に、どこかのとある星の景色を見せてもらったことがある。その星も、ひたすら争いを繰り返していた。あげく、『核』という毒を世界中が持ち、その星は最期に…………

世界は、争うしかないのですか?戦うしかなく、最期に滅ぶしかない?世界平和なんて、幻想なんですか?

争いを止めるには争いしかないのですか?世界が例えそうでも………せめて私だけは………私だけは美しく……清らかに……


貴様はそれを無くしたいんじゃない。それから逃げたいだけだ。

自分だけ、キレイでいたいだけだ。


巨大な光の渦が巻き起こった。ニンジャとデミテルは渦に吹き飛ばされ、地面に叩き落ちた。

ニンジャは急いで立ち上がった。


なんだ今の金色の光は…こんな魔術見たことがなっ


何かが、ニンジャの横を掠った。

途端、後ろで森が吹き飛んだ。見れば、巨大な直線上の溝が森に出来て、跡形も無くなっている。

「なぁっ!?」

ニンジャは口をあんぐり開けた。


おい……なんだこれは……なんだこのかめはめ波が通ったあとのようなモノは………
レ、『レイ』か?馬鹿な……こんな極太のレイ見たことが……


「私は争いを好みません。」

無感情な声がした。ニンジャはひやりとして、声の方を見た。

金色の光を帯びた黒髪の女が、こちらを見ている。その瞳は憂いと強さと、そして

恐怖を感じた。デミテルは意識が朦朧とした中で、彼女を見ていた。まるで、別のモノを見るように。

ルナが、ゆっくりと一歩進んだ。それだけで、ニンジャはビリビリと威圧を感じた。

「彼を見逃し、去るのであれば、あなたの命は見逃します。」
「くく…………くはーはっはっはっ!!」

ニンジャは狂ったように笑うと、懐に手を突っ込んだ。ルナは無感情な顔のまま、ニンジャを見つめた。

「面白い!!実に面白いわ!!貴様、噂に聞く月の精霊であろう!この辺りに住むことは里の噂に聞いてはいたが………」

「月の精霊仕留めたとあらば、拙者の名は一族に語り継がれる!」

そして…私は厄介者で無くなる……

「くたばれ!!」

ニンジャは懐から五、六枚の手裏剣を抜き取った。途端、手裏剣が真っ赤に燃え上がった。

「曼珠沙……」
「ごめんなさい。」
「え」

何が起こったのか、ニンジャは理解するのに数秒掛かった。極太の光の柱の群れが、大気を突き抜け、雲を吹き飛ばし、塔周辺に瞬く間に叩き落ちた。

前にデミテルが使った上級魔術の比では無かった。気が付けば、辺りは塔を除いて、底無しのクレーターだらけになっていた。

三ヵ所だけ、無傷の大地があった。デミテルが座り込んでいるところと、ルナが立つ場所。そして、ニンジャが手裏剣を構えたまま静止してしまっている所。

ニンジャの目だけは、狂ったように周りをキョロキョロと見て、動き回っていた。

「あ………あ………………」
「いつでも、あなたの真上にレーザーを落とすことが出来ます。」

「本当は……話し合いだけで………脅しなんてしたくはありませんでしたが………」

ニンジャは狂ったように動き回る目を、ルナに向けた。ルナの目は、憂いに満ちたままだった。

「彼を見逃し、ここを去りなさい。」

「これが最後の忠告です。」
「………!」

目から、憂いが抜けて、完全な恐怖となった。これはもう忠告ではなく、殺害予告だ。

ニンジャは歯ぎしりをすると、弾けるようにその場から飛び上がった。そして、森の中に消えた。ルナは瞳を閉じると、溜め息をついた。


デミテルは、金色に輝くルナの横顔を見ていた。まるで、執り憑かれたように。

初めて、デミテルがルナを見た時と同じように。


なんという……強さ………化け物か………

そして………あの輝きは…………
いや………

もうそんなことどうでもいい…………


今度は、デミテルの目が狂ったように動き出した。震えながら、ルナを凝視していた。

ルナが、デミテルの様子に気付いた。何か叫んでいる。が、デミテルの耳には入らない。


……………欲しい


ルナが欲しい!!

ルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しい
ルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しい
ルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しい
ルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しい
ルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しい
ルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しい
ルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しい
ルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しいルナが欲しい
ルナが


ル………


デミテルは気を失った。

あとがき


「よくも四ヶ月近くも放置しおったなァァァァ!!」

四ヶ月ぶりのデミテルの台詞であった。

「ぬぁにを他人事みたいな事を抜かしとるんだ貴様ァ!!今すぐディスプレイ飛び越えてこっちまで来い!!」

いいじゃん。この前テイルズオブマガジンの漫画にお前出てたよ。かっこよかったよ。

「………ふっ」

わかりやすいなお前。

「ところで貴様。四ヶ月近く何をしていた?やはり受験勉強が…」

pixivで絵ばっか描いてました。そしたらそれなりに上手くなりました。

「お前ちょっと自分の家のマンションから飛び降りろ」


四か月放置しといていまさら何だと思われそうです。
次回もいつ書けるかわかりません。
ハンターハンターの作者の気持ちがわかり始めたぜ…

こんなダメ作者の小説でよかったら、どうか読んでくださいまし。

コメント

時代の流れは変わるもの、元tauyukiseですが、色々あってこっちの名前にしました。こえ部、うたスキで見かけたら声をかけてください。この名で通してます。

はい、半年いかなかったんですね、待ちに待ちました。作者の都合に読者は合わせるだけです。それで、話の続きが読めますから。

ルナつえーーーー(笑)フトソン、リミィ出番ねーーーーーーー(笑)
個人的にシリアスな展開は大好きです。そのギャップであるギャグも大好きです。

いつまでも待ちますよ、私は、この作品が完結するまで、暖かいものがありますから・・・

お久しぶりです。
今回も楽しく読ませていただきました。
デミテルが死んで『その後、彼らの姿を(ry』にならなくてよかったです(笑)
これからも自分のペースで続けていってください。

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