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デミテルは今日もダメだった【69】

「とにかく簡潔に。わかりやすく状況を伝えろ」

石造りの階段を煩わしそうに昇りながら、男は後続から続く兵士に、振り向きもせず迫った。兵士はなんとも狼狽した様子で、参っているようだった。

「はっ。今から一時間程前、北街西部で巨大な生き物が暴れていると、市長宅の家政婦が報告してきました」
「それで」
「公園で何かが暴れていた痕跡があり、兵と、あと家政婦が門番のところに来た時、偶然居合わせてたモリスン殿も共に捜索を」
「それで」
「それでその、おそらくその暴れていたモンスターと思われるシルバードラゴンが、我が城に突っ込んで来ました」

濃い、緑髪をしたその男は、唇を噛んだ。

「ドラゴンは既に捕縛してあります。念の為生かしてあります。突撃して頭をぶつけ、気絶していましたので。ですが、その混乱に乗じて、尋問中の変質者が逃げ出したとの報告が…」
「そんなものはどうでもいい!」

階段を昇り切り、扉を潜った。通路には、先程まではなかった陽射しが入ってきた。
「壊れた部分は早急に修復。住民には何の問題も無い、問題は解決したと説明しろ。余計な事は言うなよ。この緊張状態にある時にモンスターに突っ込まれた等と知れたら、不信感を抱かれる。あと、見張り以外の全ての兵隊で城中を捜索しろ」
「え?誰を捜すんですか」
「わからんのか」

男は急に振り向き、恐らく男よりも年上であろう中年の兵士を睨んだ。そんなことは言わずもがな、とでも言いたげだ。

「つい先日ダオスの使者が来たばかりなんだぞ。野性のドラゴンがたまたま空を散歩していて、急に失速して突っ込んできたと思っているのか?おめでたい頭だな。何者かがドラゴンを操り、我が城に突っ込んできたのだ。今捕まえてあるのはドラゴンだけ。早くそれに乗ってきた、大胆かつ頭の悪いくそったれの首に縄をかけてこい!でないと騎士団長の俺の権限で、貴様を魔科学の実験台にするぞ!!」
「は、はい!ライゼン団長!!」
ライゼンは背を向け、肩を怒らせながら通路を猛進した。

第六十九復讐教訓「思いつきで話ができるのは才能」

「誰が大胆かつ頭も心も悪に染まったくそったれみたいな悪人だ!そんな褒められたら照れちゃうから。やめて」
「いや誰もんなこと言ってないんだな。幻聴が聞こえたんなら多分それは『大胆かつ頭も悪けりゃ〇〇〇〇〇』」
「いやそこまでは言われてないぞ。幻聴だけれども」
「僕はそう思ってます」
「ぶち殺す」

粉っぽい、火薬の匂いが鼻をついた。デミテルとフトソンは、どこかの武器庫にいる。砲弾が積み込まれた樽の山の裏で、息を切らしていた。

「いやー。フトソンを救出する為につい手段を選ばず感情的になりこんなことをやってしまたー。どうやって脱出しよー」
「うわあ嘘っぽいんだな」
「何を根拠に。私はお前の為を思ってだな、」
「どうせなんやかんやで正義の味方ぶったことやって、調子にのって失敗してここ来ちゃったとか、そんなんに違いないんだな」
「貴ー様はなぁあ!そこまでわかってんならも少し気ィ使えや!泣きそうなんだよこっちゃあ!!」
「声デカイ!」

部屋の外で足音がした。フトソンはデミテルの口をその巨大な手で覆った。力を入れすぎて顔が潰れたような音がした。足音は遠退いてゆく。

「一体どうやって脱出するんだな。リミィやリリスは助けに来ないんだな?ジャミルは?まさかもう食べちゃったんだな!?」
「げほごほっ。まだ生きとるわ。だがリミィ達はわからん。我々だけの力でこの城を脱出するのだ。」
「アンタと僕だけとか、二人の知能指数合わせたってトード以下なのに、そんなの不可能なんだな」
「トード以下ってなんだ!?私一人でもバンシー以上はあるわ!!貴様はナメクジ以下だけどな!!見ていろ!私の華麗かつあくどい脱出方法を!!」

………あーあ。ついてないなぁ

一人の兵士が、姿勢も悪く、トボトボと城内を探索していた。やる気は微塵も感じられない。

まさか、俺が見張ってる方角からドラゴンが飛んでくるなんざ、どんだけついてないんだか。おかげで、見張り兵なのに捜索するはめに……
だが、確かに一瞬だが、ドラゴンに乗ってた奴の顔は見た気がするんだよな………


どんな顔だったか思い出そうとした時、背後で何か引きずる音がした。兵士は飛び上がり、腰のサーベルを引き抜いて身を翻した。

誰もいない。あるのは、大きな木箱が一つ………
……さっきこんなのあったっけ?
「デミテルさん……」
「なんだフトソン喋るな。ばれるだろうが。あと、今の私の事はスネークと呼べ」
「知能レベルが蛇以下ってことでOKなんだな?」

二人、木箱にギュウギュウ詰めになりながら、フトソンはアホくさくてたまらない顔をした。元々フトソンの図体はたまらなくデカイ。男二人の為汗くさく、やはりたまらない。

「これのどこが華麗?」
「めっちゃ華麗だろうが!どこのゲーム会社も試した事のない新次元だろうが!!」
「いや、多分もう随分前から使われてると思う」
「静かに。奴が立ち去るまで無線は切るぞ大佐」
「誰が大佐?」

しばし、通路は無音になった。兵士は、あからさまに不自然な箱を、じっと見つめていた。張り詰めた緊張感が漂う。


………これは。この木箱は……
罠だ!!

こんなあからさまな隠れ方をする頭悪いバカタレがいてたまるか!俺も大概馬鹿だけれどもここまで馬鹿じゃねぇ!コイツは罠だな!開けたら爆発とかするんだな!!はっ!まさかこれ自体がオトリ!?


後ろからありもしない気配を感じ、兵士はデミテル達に背を向け、キョロキョロと通路を見回した。デミテルの目が光った。

「よしチャンスだ。奴を気絶させる!」
「させてどうすんだな?」
「奴の鎧を剥ぎ取り装備する。そうすりゃ怪しまれずに動ける!待っていろ大佐!」
「スネーク。まずCQCの基本を思い出して」

スネークは音も立てず箱から出て、ソローリと兵の背後に歩みよっていった。

「抜きあーし…差しあーし…忍びあーし………」
「何で口に出して言ってんだなあの馬鹿。そして気付かないあの兵士も相当な馬鹿」

木箱に開けた小さい穴から、馬鹿みたいながに股で歩み寄っていく背中を見ながら、フトソンは呟いた。
デミテルは舌なめずりしながら、兵士の首に手を伸ばした。

その時、地鳴りのような音が轟いてきて、デミテルはびっくりして後ろを振り向いた。木箱が、小刻みに震えている。フトソンの腹の虫だった。「どんだけデカイ腹の虫だァ!?」「だって捕まってからろくなもん食えてないんだな!アンタが突っ込んできたせいでカツ丼食いそこねたし!」

「お、おいっ。動くな」

デミテルの口がピタリと止まった。背後から首の横に、刃物が伸びてきている。立場が逆転したようだ。

「貴様、どこの誰だ。この城の者ではないな」
「ええっと………」
「おい誰か……」
「oh!わたーし怪しい者ではござらんでーす!!」
「え」

いきなり素っ頓狂な声を上げてデミテルに兵士は身を固めた。デミテルはクルリと華麗に回転すると、やり過ぎな営業スッマイルをした。

「わたーしは遥か遠方の異国からきましーた!大道芸人でーす!是非このおしーろの王族付きの芸人にしーてくーださーい!」
「えー……」

異常なテンションに兵士は飲み込まれたようだった。デミテルは我ながらこういうノリと思い付きだけでやり過ごすの得意だな、と思った。このままうまくやりこめてくれる。

「ぜひ、王ー様に会わせろべらんめー早くしろぶち殺すぞクーズがー」
「い、いや俺にそんな権限無いし」
「ホワッ?あなーた偉い兵隊さーんじゃないんですかー。」
「いや下っ端だけど」
「その顔つきはどうみても一流の変態じゃねーや兵隊の顔ネー。うちの国ならモテモテあるよー」
「えっマジで?」

あ、こいつ馬鹿だ。とデミテルは思った。正直、兵士の顔は完全なトード顔で、モテる国があるとしたら多分沼の中だろうなとデミテルは思っていた。

「ねーカコイイ兵隊さん。王様会わせてよー。お土産にあれ、タコワサビあるよー。超うめーよ。わたーしの国の特産品よー」
「いや、王様にタコワサはダメっしょ」
「あとつくねぐしとかピーナッツとか」
「どんだけ酒のツマミが発達した国!?」

「よし、じゃあ今から私の最強の芸をグランドオープンしてくれてやるよ。ちょい後ろ向け蛙顔」
「あ、はい、」
「えー、まず後頭部をこの分厚い魔術書の角で殴ります」
「え、そんなことしたら気絶しちゃうじゃないですか」
「そうですおやすみ」

デミテルはゆるゆるに被っただけの兵隊の兜をパッと外し、懐から引き抜いたエクスプロードの書で、頭を思い切りぶっ叩いた。兵隊は情けない声を漏らして、次に床にぶっ倒れた。デミテルは手を震わせた。

な、なんて悪い事をしてしまったんだデミテル……こんなちゃんと悪い事出来たのは何話ぶりだ……泣きそうだ………
これぞ……まさに悪!!

「ふっはっはぁ!見たかフトソン!私とてやれば出来るんだよ!こんな悪い事出来るんだよ!!褒め讃えろこの私を………」

デミテルが背後を見た時、そこには空の木箱が通路に転がっているだけであった。「大佐ァアア!!」

―――――――――――――――――

まったくもぅ、なんでこんな非常事態に、あんなわかる人にしかわからないボケに長々と付き合わされなけりゃいけないんだな。僕はもうちょい、勝手ながらも賢く動くんだな。
例えばそう、僕が今厨房で食料を物色しているのは、あくまで長期戦に備えて腹を満たす為であってェ、決してなんかいい匂いに釣られ、本能に打ち勝てず、デミテルさんをおいてきぼりにしてきてしまった。そんなこたぁ全然ないんだな。カレーうめぇ。

そんな言い訳を脳内で何度も繰り返しながら、フトソンは広々とした厨房内を物色していた。

別にこんなん全然悪いことじゃないんだな。主人公一味が人の家物色して許されてんだから、僕が許されねー道理は無いんだな。

「まぁ、高級そうなお菓子一箱デミテルさんに上納すりゃ、怒りは簡単に沈められ…」
「誰に上納するって?そこの変質者!」

聞いた事の無い声がした。ハッとし、声の方を見た。厨房の観音開きの扉前を、三人の人影が陣取っていた。見つかった。

「やはりリーダーの言う通りだったな。本当に厨房にいやがった」
「読み通りです。逃亡者、侵入者がまず最初に必要とするは食料の確保なのです。相手の動きを読む、このような能力も部隊の隊長に必要なのです。勉強になりましたか、スリーソン君」
「は、はい!」
「なんなんだなお前ら!!」

フトソンの叫びに、リーダー各と思われる、どこかインテリぶった男が反応した。

「ミッドガルズ王国一番隊隊長、ワンズ」
「え?わざわざ名乗るのですかワンズ殿?ミッ、ミッドカルズ王国三番隊隊長、スリーソン!」
「二番隊隊長ツーサムだ!!って、俺が三番目に名乗っちゃ変だろ!」

「三人そろって、ミッドカルズ三銃士!!」と叫び、三人は何だかとっても恥ずかしいキメポーズをした。フトソンはでっかい口を半開きにしていた。いつ、どこの時代、場所にも、馬鹿はいるんだと思った。
が、スリーソンという戦士は他の二人と違い、動きがあどけなく、顔も赤く恥ずかしそうにしていた。髪を後ろに縛って、どこか緑かかった黒髪だ。

「ワ、ワンズ殿。このポーズは必要なのでしょうか。変質者に唖然とされておりますが」
「スリーソン君。君は隊長になってまだ日が浅いからわからないでしょうが、このポーズの素晴らしさがわからないうちには、君は一人前の戦士にはなれないでしょう」
「そんな馬鹿な!?」
「へっ。女にはわかりゃしねーのさ。男のロマンって奴がぁ………」
「ツーサム殿!それは男女差別ですか!それは偏見です!女性とて立派な戦士になれます!」

今の内にとっとと行ってしまおうかとフトソンは思ったが、扉は三人組の後ろだ。あの三馬鹿を突破せねば出る事は叶わない。

「あのー………」
「大体ツーサム殿は二言目には女だ女だ。女性兵士は少しずつ増えているのです!男女の垣根など…」
「どうあがいたって女は力で男に勝てねーだろーがー」
「んじゃー今ここで力比べしましょうかぁ?私顔によらず鎧の下はかなり筋肉ありますよー?」
「男よりマッチョな女とかー。男がよりつかねーだろうなー。一生一人身かー」
「メタボのあなたも一生一人身でしょうねー。おまけに早死にでしょねー」
「俺はちょっとポッチャリしてるだけだぁぁあ」

「二人とも冷静に!変質者が近付いてきましたよ」
「何!?」

……こんなアホな奴らにまで変質者呼ばわりされる僕って………

「スリーソン君、下がりなさい。」
「いえ、私が仕留めます!変質者は女性の大敵です!私が必ず討ち滅ぼしてみせます!」
「生言ってんじゃねぇよ。下がりな。」

「ツーサム!!」
「女は男の後ろでよぉ、無事祈っていてくれりゃそれでいい。やられるのは男だけでいいんだよ……」
「ツーサム……私は……」
「へへっ…屍は拾ってくれよ…」
次の瞬間、フトソンがぶん投げた長テーブルが、よくわからないストーリーを展開していた三人を、扉の外に吹き飛ばした。

「着ぐるみ着てるだけでなんでここまで悪役扱いされないといけねぇんだな!?てめぇらの安っぽいドラマに付き合う暇はねえんだな!!」
「ちょっと。ちゃんと台本通りやってくださいよ変質者」
「台本とかしらねぇから!僕なんかよりあの自称悪党&甘党馬鹿にやってもらっ」
「誰が甘党馬鹿だ!!」

廊下の果てから駆けてきたデミテルの膝蹴りがフトソンの後頭部に減り込んだ。

「甘党は馬鹿だみたいな発言は許さぬ!世界中の甘き物を愛する者達の名誉にかけて!つーか貴様は何勝手に動いとるんだ!こんなとこで私を一人にすんなぁ!超怖かったわ!」

大の字、俯せでくたばっているフトソンを踏みまくりながらデミテルは罵倒した。頭にはさっきの兵隊の兜を被り、くたびれた鎧を着込んでいた。ワンズが訝し気に立ち上がった。
「あなたはどこの所属で?」
「え?」

「何番部隊の兵士ですかね?」
「わ、私はただの、アレ、見張り兵士です。」
「いかなる兵でもどこかに所属しているはずですが」
「え。ああ!そういうアレですか!それならちゃんとあります」

デミテルに足蹴にされていたフトソンは息を飲んだ。頼むから、一番二番三番。これ以外を…
「一番です」
「え?私のとこの?」
「違った!二番!」
「…………。」
「三番っ!!」
「……………。」
終わった。よりによって、言ってはいかん番号を全部言いおった。この馬鹿を見捨てて逃げよう。「実は!!百二十三番です!!」まだ何か言ってるが見捨てよう。

「百二十三番隊?」
ワンズは眉間に皺を寄せた。「そんな部隊は…」
「ふふ…」
「何を笑っているのです?」
「貴様…『壱弐参番隊』を知らんとは…『機関』の人間ではないようだな…ただの一般の兵…か」
「なん…だと!?」

なんか思わせぶりな事言ってだまくらかそうとしてるんだなこの甘党バカ。『機関』てなんなんだな。
なぜか食いついてしまったワンズに憐れみの目線を送りながら、フトソンは思った。
デミテルはもったいぶった表情、バカにするような態度で怪しい雰囲気を出していたが、背汗はものすごいダラダラだった。とにかくさっきの時同様、ノリと思いつきの勢いで喋ってるだけだ。

「わ、私は一番隊の隊長!知らない事は…」
「くくく…お前達のような平兵士は…どうせこの言葉の意味もわかるまい…『チョコレートケーキ』」
「『チョコレートケーキ』!?それは一体!?何の意味が!?」
「せいぜい悩め…『オヤツの刻』まで……」

「オヤツの…刻………まさ…か…」
「くくく…そう…その『まさか』よ………どの『まさか』だ…?」

「何言ってんだコイツら」と、フトソンとスリーソンは思った。

フトソンが全てを投げ出し逃げてしまおうとした時。フトソンの目下にあった石のタイルが、真っ暗になった。影が差したのとは違う、ドロドロした真っ黒だ。寒気がフトソンの肩を走った。
真っ赤な厳つい、鋭い生爪を生やした掌がフトソンの顔面を掴んだ。フトソンはデミテルもろとも、その筋肉隆々の腕に投げ飛ばされた。

つづく

おもうがままにあとがき
ワンズ、ツーサム、スリーソンは作品ハードによって名前違ったり、一人女だったりするので、自由な感じで行こうと思いますです。

って、なんか何事もなかったかのようにあとがき書いてますが、前投稿したの7月だね!!もう半年前だね!!ほんとごめんね!!読者にもごめんなさい!!管理人さんにもごめんなさい!!もうこれ、投稿して気づいてくださるかも怪しい…

……読んでくださる方いましたら……それではまた!!

コメント

初めてコメントさせていただきます。
3年くらい前にこの小説を見つけてから毎回楽しみにしています。

高校時代は駅や電車で読んでいましたが何度も噴出しそうになり、不審者扱いされそうなので家まで我慢して家で爆笑しながら読んでいました^^;

一時期は打ち切りかと思ってあきらめていたのですが忘れかけたころにまた新しい話が投稿されるのでそのたびに楽しみに読ませていただいています(*^_^*)

これからも無理されずに少しずつでも投稿していただけたら嬉しいです。
最終話まで見届けますよ!

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