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Tales of the world Another story【1】


Tales of the world Another story
CHAPTER1 ~歪曲の指揮者~ 
作:TKX


夜空に小さな影が浮いていた。
―君はこの世界が正しいと思うかい?
この世界のヒトが正しいと思う?
勝手に正義や悪を決めつけて、自然をことごとく破壊したり、異形の生物を容赦なく排除したり、やりたい放題のヒトが?
そもそも彼らは何が正義かなんて本当にわかっているのかな?
彼らが敵と称す者達は、本当に悪なのかな?

僕は「歪曲の指揮者」
この歪んだ世界…つまり、どうしようもない歪曲をまとめる、指揮者だ。
僕が指揮棒を振れば、世界は息の合った演奏をするだろう。
フフ…君にこの意味がわかるかな?-
夜空に浮んでいた影は、消えた。


―…大陸ユグドラース。数ヶ月前、この大陸におとずれた危機は、二人のなりきり師、そして女神によって召還された異世界の勇者達によって救われた。人々は何の異常も無い、平穏な日々を過ごしていた。今やモンスターと戦うのは、それを糧として生活していく猟師か、己の肉体と精神を鍛えんとする戦士ぐらいのものだった。
この世界の勇者である二人のなりきり師も、今は普通の少年少女として生活していた。

「ああー空が綺麗だなぁ。」
孤児院の屋根で、フリオは仰向けに寝そべっていた。ぼんやりとした目には、青空が写っている。
「ここなら大丈夫だろう…」
そういって目を閉じた。
その直後、ドンドンと誰かが煙突を昇ってくる音がした。
―ま、まさか…!!―
フリオはがばっと起き上がり、身構えた。
そして、煙突から人影が現れる。それはフリオの姿を確認すると、怒鳴った。
「こらああぁっ!!アンタ今度はこんな所でさぼってたのね!!」

「トホホ…あそこなら見つからないと思ったのに…」
数分後、根性で煙突を昇ったキャロによって、フリオは孤児院の家事手伝いをさせられていた。
これは本来の仕事なのだが、フリオはいつも適当な場所を見つけてさぼっていた。
…たいていキャロに発見されたが。
「しかしお前ちょっとは手加減しろよ。頭の形変わるかと思ったぜ。」
夕食の用意をしていたフリオは、洗濯物をたたんでいるキャロに話しかけた。
その頭には二段に重ねたアイスクリームのようなたんこぶが、煙をふいていた。
「今更頭の形が変わったって何の問題もないでしょう。アンタはすでにその中身が歪みきってるんだから。」
キャロは平然とした顔で答えた。
「ひでぇなオイ…ん?なんだか広場の方が騒がしくないか?」
「ああ…きっと旅の商人か何かでしょ…。皆物好きだからねぇ…。」
二人は急に騒がしくなった広場の様子を窓から眺めた。一人の商人を、たくさんの町人が囲っている。

しかし…次の瞬間。

なんと、商人が正面に立っていた男性の腹にいきなり短剣を突きつけた。刃は深く刺さり、ズブッと短剣が引き抜かれると、男性はその場にバッタリと倒れ込んだ。
「う、うわあああぁぁ!!」
町人達は言葉にならない声をあげて、色々な方向へ走り始めた。その間にも、パニックでオロオロしている人がどんどん切り捨てられている。
一瞬にして、広場が血の海と化した。

「…!!?」
真っ赤に染まっていく広場を見て、フリオとキャロは絶句した。
「…な…なんだありゃあ…!?」
「わ、わからない…とにかく…何とかしなきゃ!」
キャロはすぐさま外へ飛び出していった。
「オイ待てよ!!
…ったく。アイツこーいう時になると頭働かねぇのな…」
後ろを振り返ったフリオの視線の先には、いつか使っていた服が何着かたたみ込まれているタンスがあった。

「まちなさぁーい!!!」
広場に駆けつけたキャロは、狂ったように短剣を振りまわしている男に怒鳴った。
するとその男はすぐさまキャロの方を振りかえる。
中年で、中肉中背の、普通の商人のようだ。だがしかし、その目には輝きがなかった。虚ろで、曇りきっている…。その手には真紅に染まった刃渡り20センチほどの短剣が握られている。
「コロス…コ、コロス…」
ぶつぶつと呟きながら、その男はのしのしとキャロへ向って歩いてくる。その足取りはふらふらしていて、まるで酔いつぶれたオヤジを思わせる。
「…!」
その体から漂っているとてつもない負の感情に、キャロは思わず後ずさりする。
この男は普通ではない、と直感的に分かった。

「うおおおぉぉぉ!!」
広場に響き渡るような掛け声と共に、何者かがキャロの背後からジャンプして男に斬りかかっていた。それはまぎれも無く、「剣士の服」を身につけたフリオだった。
男とフリオは何度か剣を交わし、剣道で言う、つばぜり合いの状況になった。相手の動きが止まった隙にフリオは脇に抱えていた服をキャロに向って投げた。
「クレリックの服だ!ケガ人の応急処置でもしてろ!!」
「う…うん!」
キャロは服を受け取ると、すぐに着替え、ケガ人の応急処置にあたった。

男の繰り出す剣筋は、メチャクチャだった。大振りで、形も何もあったものではない。
熟練された「剣士の服」を着ているフリオに、男の手から短剣を弾き飛ばすのは何の苦労も無かった。武器を失った男は、まるでスイッチの切られた電動ロボットのように、ガクリとその場に崩れ落ちた。
「へぇ、なかなかやるじゃないか。そうか君がこの世界でいう『勇者』か。
この、もっとも歪んだ世界のね…」
「!?」
フリオが振りかえると、数メートル先に人影があった。黒いフードとマントで全身を覆い、まるで「影」のようだった。
「なんだお前…?」
フリオは突然現れた「影」に話しかけた。
「まぁもっともこの世界のおかげで、といっても過言ではないけれどもね。キッカケを作ってくれたのはこの世界だ。でも僕の力は今はこんなものか…これも時間の成す問題だろうがね。」
「影」はフリオの言葉を無視して喋りつづけた。
「まさか…お前コイツと関係あるのか?」
地面に倒れて動かなくなった男に視線を向け、フリオは言った。すると今度こそ「影」は答えた。
「ああ、そうだね。彼は僕が『正した』からそうなったんだ。彼の心は穴だらけで、修正するのはとても簡単だったよ…」
「なんだ?一体何を言っているんだ…」
「影」の言葉を、フリオは目を丸くして聞いている。いくらフリオでも、言葉は分かるし、理解できる。しかし、この「影」の言葉は、分かるのだが内容がまったく理解できないのだった。
「フフ、君には説明してもわからないかな?つまり、こう言う事さ。」
「影」は指をパチン、と鳴らした。次の瞬間その右手には剣が、左手には指揮棒が握られていた。
そして「影」は左手を挙げ、指揮棒の先で小さく円を描いた。
するとフリオの側で倒れていた男がむっくりと起き上がり、「影」の右手から剣を受け取る。
「!?くっ、まだやる気か…!?」
フリオは身構えたが、「影」はゆっくりした口調で否定した。
「安心して良いよ。もう彼は誰も襲わない。これはただの前座に過ぎないんだ。町の人も殺していない。『そういう風に』仕組んでおいたからね…。君の相棒が回復晶術をかけてまわってるみたいだから、明日には皆意識を取り戻すだろう。
…じゃあそろそろ終わりにしよう。これがフィナーレだよ。」
「…!?」
男が、自分の喉に剣を突き立てていた。フリオにはそれをどうすることもできず、ただ眺めているしかなかった。
―良かったね…今回の死者は彼だけだ。でも次はどうなるか分からないよ…―
「影」は消えていた。
広場には、呆然と立ち尽くしているフリオと、自害してしまった男、そしてキャロに応急処置を施された町人達が倒れているだけだった。全員の処置が終わったのか、キャロの足音がこちらに向っていた。
逃げ出した人達は誰もが家に避難し、恐怖に怯えていた。

レグニアの町に、一つの悲劇が訪れた…


あとがき(?)
こんにちは、TKXです。
まず最初に…ここまで読んでくださった方々、ありがとうございます!
題名に「あなざーすとーりー」なんかと書いてありますが、単なる「なりきり2」の続きを、僕の勝手な妄想で書いているだけです。そのため非常~に矛盾してるところばかりですなぁ。すみません。
「なんだかなぁ」って感じのストーリー展開ですが、これからもヨロシクお願いします。(図々しい
では、文法と表現技法と名詞、固有名詞を始めとする単語の間違い、誤字脱字の無い事を祈っております。

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