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Tales of the world Another story【2】


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Tales of the world Another story
CHAPTER2 ~再会・廻りだす運命~ 
作:TKX


レグニアの町に起こった悲劇から一週間…
不思議な事に「影」の言葉通り、致命傷を食らっている者はいても死者は一人もいなかった。
それ以来「影」も何の干渉をしてくる事も無く、町は活気を取り戻しつつあった。

「しかし何だったんだろうなぁ…本当。」
今度はトイレで鍵を閉めて閉じこもっていたのを発見されたフリオは、以前より少しへこんだように思えてならない後頭部をさすりながら呟いた。
「さぁね…知らないわよそんなの。」
キャロはひどく不機嫌である。
「オイオイすねるなよ。オレが悪かったって。もうさぼらないからさぁ~…」
「その言葉が一回目だったら信用したでしょうね。」
「………………(汗)」
家事の手伝いはフリオが夕食の用意、キャロが洗濯物と決まっている。
後でこの教会の管理人(?)、シスターミルに怒られるのが恐いので、二人の邪魔をしに来る子供もいない。

夕食ができると、ミルは子供達を席につかせた。
長テーブルの席についた子供達は隣の子とおしゃべりをしたり、ふざけっこをしたりして、笑い声が絶えなかった。この光景もいつもとかわらない。だが…
「あれ…?」
料理の乗った皿を運んでいるキャロは、子供達の席が二つ空いている事を不審に思った。この長テーブルはいつも満席で、席が余るはずはないのだ。
「ねぇ、だれかまだ来てない子がいるんじゃない?」
キャロは子供達にたずねてみる。
「ほんとだー席があいてる~」
「あ、そーいえばジャンとルシアがもどってきてないんじゃん?」
「アハハなんだよそれ、シャレのつもりかよ~」
子供達は陽気に笑う。
キャロは長テーブルを一通り見まわしたが、確かにジャンとルシアの姿が無い。
「キャロ…!」
険悪な表情で、フリオは部屋の入り口に立っていた。どうやら彼もこの事態に気がついたらしい。
「フリオ、これってどういうこと?
建物の中にいるなら、ミルさんの声は聞こえると思うのに…」
「…じつは昼間、オレが町をぶらぶらしてると、おばさん達の立ち話でジャンとルシアが森の方へ入っていったって言うのが聞こえたんだよ。そんな奥にはどうせ行かないだろうと思って、別にどうもしなかったんだが…」
「じゃ、じゃあまさか…」
二人の間に、不安がよぎった。
まさか森の奥に迷い込んでいったのではないかと。そして、モンスターに襲われたりはしてないだろうかと。

数分後、フリオとキャロはそれぞれ「剣士の服」と「ウィッチの服」を着て森の中にいた。
キャロはだんだん無くなっていく日の光を頼りに、上空からジャン達を探す。幸いにも森には背の高い草や木は生えているが、それらの密度は高くないし草も人の全身が隠れてしまうほどではない。
…一歩でも狩人の森に入ってしまったら、全く話は別だが。
「あ…もしかして…!!」
キャロが前方2時の方向を指差す。
「何だ、何がある!?」
フリオもキャロが指し示す方を見る。が、まばらながら生えている背の高い草や木に視界を阻まれ、地面にいるフリオにはその先に何があるのか分からない。
「カンバラーベアの集団が…何か獲物を追いかけてるような動きをしているわ!
ほら、皆一点に向って走ってるみたい…」
「な、何だって!?」
カンバラーベアが集団で獲物狩り?
そんな事今までに聞いた事が無いとフリオは思った。何故なら彼らはたいてい単体かせいぜい家族単位でしか行動しないからだ。
「ええい…今はそんな事どうでもいい!!」
フリオは頭をぶんぶん、と振ると、一直線にその方向へ走り出した。背の高い草を掻き分け、奥へどんどん入っていく。
「あ、ちょっと待ってよ!まだあれがそうとは決まったわけじゃないのに…!!」
と言いながらも、キャロはフリオの後を追う。その視線の先には、彼らの常識からして見ると変だと思われるような行動をとっているベアの集団があった。

案の定、ジャンとルシアはそのベアの集団に追われていた。獲物と言うのは、この二人の事だ。
(畜生…なんでこんな事になっちまったんだ!!)
ジャンがだんだんと数が増えているとしか思えないベアの集団から逃げるため、ルシアの手を引っ張って走っていた。集団は最初は2、3頭だったのだが、逃げていて、後ろを振り返ると必ず数が増えているのだった。
草を掻き分け、開けた場所に出ると、ジャン達は絶句した。いつまわり込まれたのか、数匹のベアが待ち伏せしていた。
絶体絶命、ジャンはそう思った。
ベアの一撃が、ジャンとルシアを襲おうとしていた。爪が風を切る音が聞こえる。
(うう…こんなところで…)
ジャンは目を閉じた。次の瞬間、ベアの爪が自分を貫くだろう。
しかしその時はいつまでたっても訪れなかった。
ジャンが恐る恐る目を開けると、目の前にはベアのかわりに一人の剣士が立っている。黒髪で、その前髪は片目を隠すほど長く、左耳にはイヤリング―そして右手に握られた細身の剣。
間違いない、その剣士は―


ちょうどその頃、フリオとキャロもベア達に行く手を阻まれていた。
「ああーもう!どうなってんだ!?いくらやっつけてもキリがないぞ!!」
突進してきたベアを鮮やかな剣さばきでなぎ倒しながら、フリオが叫んだ。
「いくらなんでも、多勢に無勢だわ!」
キャロはファイヤーボールで応戦している。
体力も尽きかけ、もう駄目か、とフリオが思ったその時。聞き覚えのある掛け声が辺りに響き渡る…
「爪竜斬光剣!!」
次の瞬間、あたりが眩い光に包まれる。そして数体のベアがその光と共に消え去った。
辺りが元の明るさに戻ると、今までは何も無かった空間に一人の剣士が立っていた。
鮮やかな色彩の花が飾られた青い帽子、キラキラと輝くような金髪は肩より下まで伸びている。
「レ、レイス!?」
フリオとキャロは、突然目の前に現れた男を見て、驚かないわけにはいかなかった。
何故ならそれは数ヶ月前に別れた別世界の勇者達の一人だったからだ。
「…助太刀しよう!」

頼もしい仲間が増えた今、フリオ達がベア達を全滅させるのは時間の問題でしかなかった。
辺りにはベアの死体が散乱していたが、もう新しく現れるベアはいなくなっていた。
「ありがとうレイス!でも一体どうしてここへ…」
「その話は後だろ!」
キャロの言葉をフリオが遮る。
「ジャン達を探さないと!!」
「そ、そうだったわ!」
そしてフリオ達が先へ行こうと走り出した時、レイスがそれを制する。
「急ぐ事は無い!
…安心したまえ。向こうには『彼』が行っている。」
「え…『彼』って…?」
この後、フリオとキャロはレイスの言う『彼』の姿を見て、更に驚く事になる。
ガサガサ、と奥のほうから音がした。
「おや…もう向こうも終わったらしい。」
レイスが安堵の息を漏らす。草むらからジャン達を連れ姿を現したのは…
「リオン…!?」
その男もまた、レイスと同じく数ヶ月前ユグドラースに女神によって召還された別世界の勇者だった。
「やあリオン君。向こうでは戦えるのは君一人だったのに早かったじゃないか。」
「馬鹿にするな。お前達こそ全員戦えるくせに殲滅に時間がかかったそうだな…」
「な、なんだ?一体何がどうなってるんだ…!?」
リオンとレイスの顔を交互に見ながら、フリオが言った。

ジャンとルシアを無事教会に送り届けた後、フリオ達4人は酒場に集まっていた。「落ちついた所で話がしたい」とレイスに連れてこられたのだった。意外な来客に、ローズも目を丸くしたのは言うまでも無い。
「…私達が再びこの世界に来た、と言うことはどういう事か分かるかね?」
レイスが向かいの席に座っているフリオ達に訊ねた。フリオはしばらく考えると不安交じりの声で答えた。
「もしかして、またこの世界に危機が迫ってるとか…?」
「その通りだ。」
レイスの代わりにリオンがうなずく。
「じゃあ…クレスとかも来てるの?」
今度はキャロがレイス達に訊ねた。しかしレイスは首を横に振ると、ゆっくりとした口調で答えた。
「いいや…どうやら今回は前みたいに女神に召還されたわけではないらしい。私とリオン君だけが『特別』に招待されたんだ。」
「招待って…一体誰に?」
フリオが首をかしげると、リオンが鋭い声で言う。
「とぼけるな。おそらくお前達にも心当たりがあるはずだ。”奴”はそんな事を言っていたからな…」
「心当たりって…まさか?」
キャロがフリオの方を見る。フリオも同じ事を考えていたらしい。
「…やはり何か知ってるんだね?私達に詳しく話してくれないか…」
フリオ達はレイス達に一週間前に起こった出来事の一部始終を話した。
話しが終わりしばしの沈黙が辺りを包んだ。
そしてその沈黙を破ったのはリオンであった。
「…これでハッキリしたな。今回の『黒幕』」
「え…?もしかしてレイス達も何か知ってるのか!?」
「ああ…一応ね。そうだリオン君、私達がここに来たときのことも話してあげようじゃないか。」
「言われなくてもそのつもりさ。」
レイス達はこの世界、ユグドラースに自分達が再び連れてこられたときの事を話し出した。
「何か暗い闇の中に自分がいて、そして急に手を引っ張られたような気がしたんだ。それで今度は辺りが真白になったと思うと、次の瞬間にはもうこの世界にいたわけだ。」
リオンが言う。レイスが続ける。
「そこは広い草原の真ん中だった。たしかレグニアから水の古城に向うまでのあたりだったかな…まあそんな事はどうでも良いんだ。問題は次だ。」
ゴクリ、とフリオ達は息を飲む。
「君達の話の中に出てきたのと似た感じの『影』が私達の前にも現れた。そしてそいつは私達にこう言ったんだ。『君達には特別やってもらいたい仕事があるから呼んだんだ。』ってね。」
そしてその続きをリオンが言う。
「『何だと』って僕達が訊ねると、奴は『別にあれこれ指示はしないさ。これから起こることに君達は君達の考えた通りに行動してくれれば良い。それこそがやってもらいたい仕事だからね』とぬかしやがった。そして消えるときには『最初だから助言をしようか。一週間後に森に行って見るといい…』の一言だ。」
「そして私達は君達とあまり感動的、とはいえない再会をはたすわけだ。」
レイスがため息をつく。そこにキャロはおずおずと声をかけた。
「そうだったんですか…それで、あの、レイス達が特別にこの世界に連れてこられた理由ってわかってるんですか?」
「ああ…直接あの影に聞いた訳ではないが、おおかた見当はついている。これは多分当たっているとは思うがね。」
レイスはいつもらしくない暗い調子で言う。
「それで、一体どう言う…?」
間髪いれず、リオンがさらりと答えた。

「僕達は元のそれぞれの世界で、死んだ。」


つづく

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