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Dear my Brother


        「Dear my Brother」


  …さすがに、ショックだった。



目を開けたら、飛び込んできた朝日が眩しくて、目を細めた。
「ああ、ルーティ君、おはよう。珍しいね、君が一番遅いなんて」
「え…?あ、おはよう…」
気がつくと、横でウッドロウが荷物をまとめていた。

  一人分多い、荷物。

「…一番?スタンはどうしたのよ?」
「珍しく自分から起きてね、近くの小川に魚を取りに行ったよ。
 ルーティ君も顔を洗ってくるといい。目が覚めるぞ」
「へえ…嵐の前触れかしらね」
軽く会話を交わしてから、外に出た。

外に出ると、空を覆う網のようなものが嫌でも目に付く。
あの時、ダイクロフト浮上と同時に出来たものだ。
『外殻』と呼ばれているらしい。
あたしたちはこれから、あれを何とかしなければならない。
「おはようございます、ルーティさん」
振り返ると、微笑みを浮かべたフィリアがいた。
「うん、おはよう」
「今朝は遅かったのですね」
「あたしだって寝てたい時はあるのよ、スタンみたいにね」
あたしがそう言うと、フィリアはクスリと笑った。
「もう少し待っててくださいね。もうすぐ朝食が出来ますから」

  一人分多い、食器。

「そう、ありがと。あたし顔洗ってくるわね」
「はい、お気をつけて」

小川へは、小さな森を抜けて行くらしい。
新鮮な空気と木漏れ日が心地いい。
小さく伸びをして深呼吸したら、少し頭がすっきりした。
 
  幸か不幸か、遺体は見つからなかった。  
  涙は出なかった。
  いろんなことが、一度に起こりすぎて。

しばらく歩くと、視界が開けた。
穏やかに流れる小川の水面は、日光を反射して輝いている。
その岸辺に、見慣れた後ろ姿。
「…スタン?」
「うわっ!」
スタンがよろめくと同時に何かが跳ねて、水しぶきを残して消えた。
「ルーティ…脅かすなよ。魚に逃げられちゃったじゃないか」
「別に脅かすつもりなんかなかったわよ」
スタンの隣にしゃがみこんで、顔を洗う。
両手ですくった水は、思いのほか冷たかった。
「リオンは…この冷たい水のどこかに沈んでるのかしら…」

  リオン・マグナス。
  本名、エミリオ・カトレット。

  …あたしの、弟。

「何だよ、ルーティは諦めちゃったのか?」
「…え?」
思わず顔を上げた。
「見つからなかったら終わりなんてことはないだろ?
 リオンはきっと生きてる、また戻って来るって信じてる。
 俺だけじゃない、ウッドロウさんもフィリアも、そう信じてるんだ。
 ルーティが諦めてどうするんだよ?」
「信じる…か」
「そうさ」

  信じることしか出来ないのは辛いけれど、
  信じられるということがどれだけ素晴らしいことか。
  信じられる仲間がいるということがどれだけ心強いことか。

風が吹いて、落ち葉が飛んでいった。
一緒に、あたしの中のわだかまりも運び去ってくれた気がした。
「…あいつが帰って来たらさ」
「ん?」
「一発ぶん殴る!」
「ええ!?」
驚くスタンに、拳を突き出してみせる。
「あたし達やマリアンに心配かけたんだから、
 そのくらいしなきゃ気がすまないわ」
「そ、そうかもしれないけど…」
空を仰ぐと、あいかわらず『外殻』がある。
でも、今なら何とかできる気がする。
「…そしたら、言ってやるのよ。
 『おかえり』って!」
「…ああ、そうだな!」
スタンが笑った。あたしもつられて笑った。
「よし、ルーティも手伝ってくれ。魚をいっぱいとって帰らなきゃな!」
「オッケー!」
 
  自分の居場所が見出せなかった、不幸な少年。
  あなたの居場所はここにある。

  あたしも、信じよう。
  一人分多い道具たちが、使われる日が来ることを。
                   
                              END
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あとがき
 拙い小説で申し訳ないです…何分、初挑戦なもので(言い訳)。
 一応、リオンがいなくなった後のキャンプ、という場面設定です。
 ルーティは強い女性ですが、やはり葛藤はあったのだろうと思います。
 スタルー気味なのは私の趣味ですが(…)。
    
 しっかし、突っ込みどころがありすぎて笑っちゃいますな。
 でも、突っ込み出すときりがない上、私がへこむので割愛。

 読んで下さってありがとうございました♪

 今度はもっとましなのが書けるとよいなあ…(懲りろ)。

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