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フォッグの休日



 職人の町ティンシア。
 ここは現在自由軍シルエイカと言う革命集団が潜伏している。

 彼らの目標は、セレスティアの領主として自由軍のリーダーであるフォッグを君臨させる事。
 これは、日々リーダーの為に翻弄している彼らを傍目に、毎日を休日よろしく過ごしているフォッグの話である。






フォッグの休日






 ベッドルーム、寝室、休息所。
 色々と呼び方はあるがここはフォッグ専用お昼寝部屋である。
 専用、というだけあってフォッグ以外ではここに入るのは副官であるアイラぐらいだ。

 普段から司令室の椅子、机は彼の優秀な部下達が磨いてくれるが、ここに立ち入るのはアイラのみ。
 アイラは非常にしっかりした性格で(一部から裏リーダーとの声も聞こえる)この部屋も衛生が保たれていたのだが、彼女は今現在、晶霊技師ガレノスの元へと行っている。

 大らかで、細かい事は気にしないフォッグだが(悪く言えばがさつ)流石に部屋の惨状を見かねたらしい。
 滅多に手にとらない掃除器具を片手に立ち上がった。


「バリッ・・・・しっかし・・・・・オレ様の部屋はきたねぇな・・・バリッ」


 それなりに高級なカーペットの上に散らばったゴマ。
 ゴマ、ゴマ、ゴマ。
 アリの大行進?と思わず首を捻りたくなるほどだ。


「ぬぅ・・・・バリッ・・・・何だってんだ」


 先程からどんどん増えていくゴマ。
 生憎フォッグには心当たりが無いのだが、次から次へと増えていく。
 首を捻らずにはいられない。


「さっさと掃除するか・・・・バリッ」


 そして『フォッグ愛用(使用回数0回)コロコロ君』を手に取ると、右手を机の上に置いてあった袋に突っ込んだ。
 そのまま手で袋の中を探る動作。

 ガサゴソ。
 ガサゴソ、ガサゴソ。
 ガサゴソガサゴソガサゴソガサゴソガサゴソガサゴソガサゴソガサゴソ!!!

 手が止まる。
 フォッグはしばらく未練がましくその袋を見つめるが、やがて諦めた様に右手を引き抜いた。


「アレだな」


 フォッグはその『とっても美味しいゴマ煎餅』と書かれた袋を片手でくしゃくしゃにすると、ゴミ箱に放り込む。


「さっさと掃除を始めるか」


 コロコロ君の先端に付いているローラーが回りだし、床に散らばったゴミを綺麗に取っていく。
 その爽快なローラーにすっかり気分はご機嫌だ。
 自然と鼻歌までこぼれだす。


「ラララルラララ・・・・たららヒュルゥ~」


 テンポよく右足を軸に1ターン。


「ババンバンババン・・・タララひゅるぅ~」


 左足を軸に2ターン、3ターン。


「きみのよこ~がおは、何を・・・・たらりらりらヒュルゥゥ~」


 4ターン、5ターン、6ターン、7タ・・・


ずびしぃぃぃ!!!


「グハァッ・・・痛ってぇぇ!!!」


 クリーンヒットした小指。
 華麗に決まった右のローキック。
 ちょっとイヤな方向に向いている小指。
 誰しも一度は経験が有るだろう、タンスに小指がぶつかると非常に痛い。


「このクソタンスがぁぁぁ!!!」


 エンカウント!!



 タンス が あらわれた!!

 フォッグ の 先制攻撃!!

 フォッグ は 『ローキック』 を 放った!!

 タンス の 強烈な カウンター!!

 フォッグ は 200 の ダメージ!!



「このクソタンスめ!!
 ・・・エレメンタルマスター!!!!」



 フォッグ の 攻撃!!

 フォッグ は 『エレメンタルマスター』 を 使った!!

 巨大レーザー が タンス を 襲う!!

 タンス に 3000 の ダメージ!!

 タンス は 戦闘不能!!



 フォッグ は 1 の経験値を得た!!

 フォッグ は お金 を -100000 G 得た!!



「しまった!!
 オレ様のサイフが!!」

 彼はタンスを破壊することによって起こる二次災害を考慮しなかった。
 タンスの上にあった革のサイフは見る影も無い。 



 フォッグ は 『美少女コスプレ服(フォッグ専用)・・・・・・洋服』 を 2 個 失った!!

 フォッグ は 『秘蔵のデデちゃんの写真』 を 19600 枚 失った!!

 戦闘に勝利した!!



「ぬあぁぁぁぁ!!!
 しまったぁぁぁぁ!!!」


 フォッグは泣いた。
 幸い誰も見ていない。
 世界ですら彼の泣く様を見て見ぬフリした。

 世界の心情は、

『とても可哀想だ』

 が、1割。

『自業自得だが、慰めたい』

 も、1割。

 残りの8割は、

『ムサ苦しいヒゲ面で泣いてんじゃねえよボケェ!!』

 だった。





 しばらくガックリと項垂れていたフォッグだったが、何かを思いついた様だ。
 突然弾かれた様に立ち上がる。


「くそっ!
 こんな日にはアレがアレでアレにきゅうりだな」


 先程までの神妙な顔は何処に行ったのやら、とても嬉しそうになった。


「アイラ!
 今日はアレでアレでアレでアレだからな、アレだ!!」


 生憎だが、今日はアイラは出張だ。
 出張、と言うのも変な話だが、リーダーがコレでは致し方ない。


「くっ、アイラが居なきゃオレ様が食材の買い出しに行かなきゃならねぇじゃねえか」


 どうやらフォッグは料理を作るつもりのようだ。

 アイラの管理している軍資金貯蔵庫に、無断で立ち入る。
 そして先程不慮の事故で損失した金額を(無断で)取ると、食材を求めて町の食材屋に向かった。










 食材屋 フドゥ:ティンシア。


「オウ!
 まずこのキュウリだろ・・・それからキュウリもだな」


 町の食材やに来たフォッグ。
 巨躯の彼には少々小さいのではないかと思われる買い物かごを右手にぶら下げ、食材を物色中。


「それにこのキュウリと・・・あと、アレも欠かせねぇな」


 そう言ってキュウリとキュウリをかごの中に入れる。
 因みにゲーム設定上、「フドゥ:ティンシア」ではキュウリは売っていない。


「あとは・・・・・なに!!?」


 グルッと店の中を見渡すフォッグ。
 そして、その目がある一点で止まる。


『本日発売!!デデちゃんアイス!!!』

 本来『デデちゃん』と言うのはフォッグが飼っているミアキスの名なのだが、これはある一部の人物(フォッグ)を対象とした、確実に売れる商品である。
 事実、迷わずかごに入れるフォッグ。

 そして、他の食材など見るだけ時間のムダだ。とでも言わんばかりにさっさと会計を済ませ、店から出た。


「ランララララン・・・たららヒュルルゥ~」


 早速道ばたでデデちゃんアイスを取り出すフォッグ。
 顔が喜びでだらしなく緩んでいる。
 今のところ包装をとっているところなのだが、既に口から涎が溢れている。


「ねぇねぇママ~。
 あのおじちゃんよだれ垂らしてるよ~?」

「こら!
 まー君、変な人を見ちゃいけません!!」


 幸せ真っ直中のフォッグは、包装を剥ぎ終わり、大きな口を開けてデデちゃんアイスを食べようとした・・・が。


「貴様!!何者だ!!
 本官らの居るティンシアで不届きな真似などさせん!!!」


 何処からどう見ても警察の服を着た男ら三名が、フォッグの楽しみをさえぎった。


「な!?ちょっとまて!!
 オレ様はアレだが別にアレをしてたワケじゃないぜ!!!!」


 言ってる事は意味不明だが、全く覚えのないフォッグ。
 それはそうだ。
 自由軍といってもまだ表だって活動はしていない。

 それ以前に、現在のセレスティアの領主バリルが、統治権を放棄しているので警察など存在しないハズである。


「ええい!!うるさい!!!
 貴様のその顔は既に犯罪者じゃぁっ!!
 貴様のような輩が居る所為で・・・娘はっ!!・・・娘はぁっ!!!」


 何やら魂の叫びを上げる中年の警官もどき。
 後ろの警官二名もうんうんと頷いている。

 なにやら強い疎外感を受けたフォッグは・・・・キレた。


「ガハハハハ!!!
 おう!!お前らはアレか!?
 そうじゃなきゃ絶対オレにアレだぜ!!?」



 エンカウント!!



 警察 が 現れた!!

 警察 が 現れた!!

 警察 が 現れた!!

 フォッグ は スペクタクルズ を 使った!!



 警察1 (HP 8500/8500)

 警察2 (HP 8500/8500)

 警察3 (HP 350/350)



「オウ!!
 三番目の兄ちゃんはアレだな!!
 ガハハハハハハ!!!!」



 フォッグ は 『バーニング・フォース』 を 使った!!

 灼熱の業火 が 警察1 と 警察2 と 警察3 を 包み込んだ!!

 警察1 に 8500 の ダメージ!!

 警察1 は 戦闘不能!!

 警察2 に 8500 の ダメージ!!

 警察2 は 戦闘不能!!

 警察3 に 0 の ダメージ!!

 警察3 は 『野菜炒め』 を 作った!!



「おう!?
 オレ様はにんじんがアレなんだ!!
 よるな!!」


 激しく後退するフォッグ。
 後頭部は冷や汗たらたらだ。

 一方警察3はお構いなしだ。


「ええい!!
 貴様の所為で伊集院さんも山田(仮)さんも!!
 全部貴様の所為で!!」


 そう言って警察3は倒れている中年二人に気遣わしげに視線を投げると、何かを決意したようにキッとフォッグを見た。


「くらえ!!
 俺の魂の野菜炒めを!!!」


 突然警察3は号泣した。


「・・・・・・・おい?
 なんで泣いてるんだ?・・・アレか?」


 思わずいたたまれなくなったフォッグが聞いた。
 警察3は必死に鼻をすすりながら答える。


「ひっぐ・・・・思わず・・・ヒッグ
 自分の・・・ヒッグ・・ヒッグ・・・言った・・・
 ・・・・セリフに・・ヒッグ・感動して・・」


 先月二十九歳になった彼は、十八の頃から働いている。
 社会人になって二年は、先輩の雑用(パシリ)で精一杯だった。
 それから九年、下積みは長かった。


「・・・俺・・・今までチラッとでも話に出てきた事無かったから・・・・ヒッグ
 ゲームでもNPCで一度もセリフ変わんないし・・・・ヒッグ・・・嬉しくて・・」


 涙、鼻水、名も泣き警察もどきの青年の話は感動だった。
 思わず近づけられた(涙、鼻水)顔ごと突き飛ばしたくなるくらい。


「そ、そうか。
 それはアレだな、うん。
 よかったじゃないか」


 なんと言ったらよいものか。

 取りあえず話の流れに逆らわないようにしたフォッグ。
 そんな顔の引きつったフォッグであったが、青年には祝福の言葉に聞こえたらしい。
 大柄なフォッグの両手を強く握りしめ、縦に大きく顔を振る。

 あまりに勢い良く振った顔。
 飛び散る涙、そして鼻水。


 まるでそれは狙い澄ましたかのように、見事な銀色の(光が反射した)アーチを描いてフォッグの右手に飛びかかる。


べちょ


 唖然と自分の右手を見るフォッグ。

 相手の鼻から繋がっている水。
 べちょべちょと粘つく手。
 そして、彼の指がなお掴んで話さないアイスバー。

 そう、アイスバー。


「・・・・・・しまったぁぁ!!!!」


 後の祭りだ。

 もうアイスは溶けてしまった。
 それも、まだ一口も口を付ける前に。

 何故?
 自分は何故『デデちゃんアイス』を食べれなかった?


 フォッグの中に、沸々と疑問が浮かび上がってくる。
 血走った目が捉えたのは、目の前で未だ両手を握っている青年。

 フォッグは、自身の中にどす黒い復讐心ができあがっていくの感じた。


「貴様らの・・・・貴様らの所為でぇぇっ!!!」


 愛用の大型銃で思いっきり青年を吹き飛ばす。


「ええぃっ!!!
 もうアレだ!!!
 全員・・・・死刑だッ!!!」










 後日、アイラがティンシアに帰ってくるとまず目に入ったのが、桟橋で簀巻きにされた三名。
 アイラは知らないが、あの伊集院さんと、山田(仮)さんと、名も無き警察3である。
 下手人はもちろん彼だ。

 激しく冷や汗たらたらでアジトに戻り、リーダーに帰還の報告をしようと司令室に行くと、やけに機嫌の悪いフォッグが居たらしい。






~fin~

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