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大海が呼ぶ


大海が呼ぶ




大きな波と小さな波のレンガを打つ音が、今日も聞こえるアルヴァニスタ港

そこに一組のカニの母子がいました。


― おかーさん、あそこにある青くてキレイなのはなーに?


子ガニはまだ小さなハサミを、港道の脇の青い箱に向けて聞きました。


― あれは宝箱よ。

― タカラバコ?


聞きなれない言葉に子ガニは目をキョロっとさせて再び聞きました


― 宝箱はね、人間が何か大事なものを入れておくのに使う物よ。

― ふーん、中に何が入っているのかなー?


海より青く、太陽の光を受けて光る宝箱。


― おかーさん、あの箱開けて良いかなー?


子ガニはうずうずして、箱の中身も知りたくなりました。


― う~ん、坊やには無理ねぇ、お母さんでも無理だもの。

― えー! 見たい見たい! 見たいよー!

― そうねぇ・・・ 坊やが大きくなって、お母さんよりもハサミが大きくなったら開けられるかもしれないわ。

― どのくらい? おとーさんくらい?

― えぇ、お父さんくらいになれば開けられるわよ。

― 大きくなれるかなぁ?

― 坊やなら、きっとお父さんより大きくなれるわ。

― そっかぁ、じゃあ僕大きくなる!


その日から、子ガニはいつか宝箱を空けられる日を夢見て、

毎日宝箱を守り続けました。


― やぁ僕、なにやってるんだい?


ある日、宝箱を守っている子ガニに話し掛けてきたのはカモメでした


― このタカラバコを開けられるまで守ってるんだ。

― それは、君の宝なのかい?

― うん、そうだよ。 僕のハサミがおとーさんより大きくなったら開けるの。


子ガニは、ふと思いました。

このカモメのおじさんなら、宝箱を開けられるのではないか、と。


― ねぇ、おじさん。

― ん、なんだい?

― おじさんは、この箱開けられる?

― う~ん、おじさんにはちょっと無理かな? つるつる滑ってふたが持てそうにないから。

― そっか、残念だな~。

― じゃあ、頑張ってね。

― うん、さようなら~。


カモメはバサと翼を広げて空高く飛び立っていきました。


― よぉ! 何やってるんだ?


次に話し掛けてきたのはアジでした。


― タカラバコを守ってるんだ。

― へー、面白そうだな。 中には何が入ってるんだ?

― 分かんない。

― 分からない? 開けたこと無いのか?

― うん、でもいつかハサミが大きくなったら開けるんだ。

― そうか、なら言っとくぜ。 人間には気をつけな。

― どうして?

― その中身が本当にお宝なら、宝箱を簡単に開けて持っていくぞ。 人間が作ったものだからな。

― そ、そうなんだ。 どうしようかな・・・。


人間なら簡単に開けられる。

その言葉に、子ガニは不安になりました。


― どうしたら良いのかな?

― そのときは気合だよ! き・あ・い!

― キアイ?

― まぁ、お前の場合はそのハサミを振りかざして威嚇すれば良いんだよ。

― イカク?

― おどかすって意味だ。わかるか?

― 『キアイ』で『イカク』か・・・。


子ガニは自分のハサミをグッと掲げてみました。


― よし、その意気だ! じゃあ俺は行くぜ、頑張れよ!

― うん、ありがとう!


アジはバシャっと身を返して海へ潜っていきました。




波が穏やかなその日、子ガニが不安に思っていたことが起きました。

そう、人間が来たのです。


― に、人間だ・・・。

『あんなところに宝箱がある、行ってみよう。


人間の少年は宝箱に気が付くと、港道沿いに歩いて子ガニの方へやってきました。


― こ、恐いよぉ・・・。


(そのときは気合だよ! き・あ・い!

子ガニは、以前アジに言われたことを思い出しました。


― キ、キアイでイカクだ・・・。


子ガニは決死の思いで赤いハサミを振りかざして、じりじりと前へ出ました。


『わっ、何だこのカニは!?


子ガニはまた左右に動いて、人間の少年に避けられないようにしました。


― 渡すもんか! これは僕のだい!!

『なんでコイツだけこんなに攻撃的なんだ? こうなったら・・・


少年が身構えた時でした。

少年の後ろの小道の入り口から声が聞こえてきました。


『たかがカニだが、そのカニにも我々と同じく譲れないものがあるのかもな。

『あっ・・・

『それに、我々の目的はそんな宝箱をじゃないだろう? 一刻も早くレアード王子を救わなければ。

『・・・そうですね。


すると少年は構えを解き、戻っていきました。

子ガニはまだ身構えています。


― あ、あ、あ・・・


威嚇していたつもりが、いつの間にか恐怖で動けなくなっていました。


― や・・・ った・・・ 守ったぞ・・・!!!






― でね、身体に模様のある人が後ろで何か言ったんだ。そうしたら宝を取ろうとしてた人も戻って行ったんだ。

― 良かったわね、人間に会ったって聞いたから、お母さんすっごく心配したのよ。

― うん、ごめんなさい。 でもあのタカラバコは開けたいんだ、自分で。

― そう、坊やは強い子ね。 でも、人間には十分注意してね。 人間は今回見たいな人ばかりじゃないから・・・

― 分かってる。 それじゃあ今日も行ってくるよ。

― 気をつけてね。


今日も子ガニは青い宝箱を守るのもでした。

赤いハサミと気合で・・・。



アセリア暦 4202年  夏  アルヴァニスタ港にて。




~おしまい~

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