~予感~
覚えてるのは暖かな匂い。
顔とか、声とか、姿とか、何にも覚えてないけど。
それでも。
大好きって思える、きっといつか。
・・・そんな予感。
「ともかく、だ」
クラース・F・レスターは、一つまみほどの金属を目線より掲げた。
「この契約の指輪を直す為には、エルフの力が必要不可欠だ。だったら、考えられる可能性はひとつだ。」
「エルフの集落、ですね。」
クレス・アルベインは微かにうなずき、クラースを見た。
一方でミント・アドネードは不安そうな顔でもう一人の仲間を見つめていた。
「あ、あたしならだいじょーぶ!宿屋で待ってるよ!」
視線に気づいたアーチェ・クラインが笑って答えた。
しかたないじゃん、アーチェ。あたしはハーフエルフなんだから。
寂しい心を、自分で自分を慰めていた。その一方で、ひとつの想いが膨らんでいた。
あたしのお母さんがうまれたところ・・・あたしの仲間がいるところ。それから・・・
突然放り出していたほうきをひっつかむと、その場から逃げるように去っていった。
クレスたちが水鏡ユミルの森を抜けたのを見届けると、アーチェは手近な木々のなかで一番大樹と思われる樹の枝に降り立った。
ここからなら集落が見えるかもしれない。
その真紅の瞳が見開かれると、顔は火照り、涙があふれそうになる。
ああ、ここがお母さんの故郷。そしてあたしの・・・
見たこともない家並み、そこに居る見覚えのある種族。眺めただけなのではっきりとはわからないが、たしかに‘匂い’がした。
風が心地良い。
アーチェはそのまま腰を下ろすとエ改めて周りを見渡した。
エルフの住処だけあり、樹々はどれも大樹で生い茂り、湖は澄んで波紋が広がっている。
見たこともない野鳥が飛び交い、緑は深かった。
これが故郷なんだと実感した。そのとき。
っっ!?
一本の矢が、アーチェの肩をかすめた。
それを皮切りに、隙を与えず、まるで雨のように身体を襲う。
血が迸り、痛みに耐え切れず、身体が樹から離れ。
風が鳴り、緑がざわめき、鳥が去り、波紋が騒いだ。
「やはりな。手間をかけさせやがって。」
「すぐに戻って早急に処刑をしなければ。」
人だまりが去る陰で、震える影があった。
「やだ、はなしてよっっ!!」
夢に見た、感動を覚えた故郷で、アーチェは縄に縛られ、身動きが取れぬまま、エルフの矢を突きつけられていた。
「ハーフエルフはここへ来てはならない決まりだ。破ったものには死刑あるのみ。」
「人間の混血児。異端なるものよ、崇高なるエルフの慈悲で、痛まぬように殺してやろう」
異端なるもの・・・!
アーチェの眼が悲しげに見開かれ、エルフが弓の弦を引いた、そのとき。
「アーチェ!!」
「クレス!、クラース!!、ミントぉっっ!」
指輪を直し終えた3人がヘイムダールと呼ばれるトレントの森から戻ってきた。
しかし、許しを請う3人の話を、エルフたちは聞き入れようとはしない。
「ハーフエルフは死刑あるのみ!!」
再び、矢がエルフの頭上に上げられた。
「やめてえっっ!!」
声と共にアーチェを抱いてかばう女性。
基本的に狩り以外の殺生はしないエルフたちは、さすがに同族を殺すわけに行かず、矢先を止めた。
「そんなにハーフエルフを、この子を殺したいというのなら、私が胸を打ちます!私が代わりに死にましょう!だからこの子は
・・・アーチェだけは・・・!助けてあげて・・っお願い・・」
このひとは誰?私は知ってる・・この匂い・・
あったかい、なつかしい、陽だまりの匂い・・・
・・・おかあさん・・・
「・・・縄を解いてやれ。」
「族長!?」
「・・ルーチェの気持ちも察してやれ。我々エルフは、仲間を思いやる気持ち、その誇りまで無くしてしまったか?違うだろう?」
エルフ達はうなずいたり、うつむいたり、泣き出したり。
広場は恐ろしいものが去った後のように悲しみで溢れていた。
「・・・承知しました。・・」
唇を噛み、弓を射ようとしたエルフはうつむき、後ろの下がった。アーチェは縄を解かれ、集落の入り口で突き放された。
「さあ、早々ここから立ち去ってくれ。そしてもう、ここへは来ないで欲しい。次は貴方を助けられる保証はないのだから。」
そう言って去っていくエルフたちに胸をなでおろす仲間たち。
「さあ、アーチェさん、傷を回復しましょう?」
「・・・いや・・・」
ミントの言葉を振り切るように、首を振る。
「アーチェさん?」
「まって・・ねえ!!おかあさん!!お母さんなんでしょ!!あたしのっっ!!おかあさん!!!」
泣きながら、またなかに入ろうとするアーチェを、やさしいエルフの兵士たちは悲しげに抑えていた。
お母さんは・・あたしのこと、どう思ってたの?いらない子だって思ってた?だから捨てたの?それとも・・・
ずっと思ってた疑問。そのときからあたしのなかでずうっと渦を巻き始めたんだ。
でも。あいつがあたしに答えをくれたの。
クレスが言ってた。あいつは、小さい頃に親を亡くして、苦労して生きてきたんだって。
だから人を信用しようとしない。ひねくれた性格だけど、ほんとは妹想いのやさしいやつなんだって。
「またきちゃいましたあ~」
「アーチェ!!」
上空から突如現れるアーチェにクレスたちは驚く。
「ここには来るなって言ったろ!」
チェスター・バークライトは呆れたようにアーチェを見た。
「見つからなかったのか?」
「へへへ、ばっちし!」
「ヘイムダールを上空から越えるとは、さすがヴォルトの力だな」
少し前にレアバードを入手した時から格段に上がった飛行力を思い出し、クラースはうなずいた。
「しかし、オリジンは属性攻撃が効かない。せっかくのアーチェの魔術もどの程度効いてくれるか・・・」
「でもやってみなきゃわかんないじゃん?それにいないよりいるほうが絶対オトクだしょ?」
「・・・ほれ」
突然チェスターはアーチェに袋を手渡した。
「なにこれ??」
「見りゃあわかるだろ。手袋とほうき。」
「ルーチェさんから預かってきたんです。アーチェさんにって。手袋は手編みだそうですよ」
「スターブルーム。エルフの最高作品らしいぞ。」
チェスターの代わりに説明するミントとクラースは微笑む。
「お前さあ、なに迷ってるんだよ。150年待ってくれたんだろ。来ないかもしれない娘の為にさ。嫌いなわけないだろ。」
「!・・・・うん!!」
そのときからかもしれない。あいつの事、すごく気になりだしたの。
いままでやな奴っておもってた、あいつ。
あいつに逢いたい・・・・
クレスはダオスを倒した。
みんな、ダオスを恐れる事がなくなった。それはいいこと。
でもね、あたしは不安。
クラースも、お父さんも、みんなあたしより先に居なくなっちゃう。
わかってたこと。あたしはハーフエルフ。
生身の人間なんかよりずっと長生き。
100年を一人で待つ勇気がない。できないよ・・・
おかあさん。。。
「ハーフエルフだ・・・!!」
「世界を危機に追いやった輩だ・・・!!」
「ハーフエルフが居るから人間は怯えなくてはならないのよ!」
「ちが・・・あたしは!」
「人間じゃない!異端だ!」
「ここから出て行ってくれ!!」
わからない・・・・
「ハーフエルフはここにきてはならない!そう言ったはずだが?」
エルフの森集落の入り口で、アーチェは村に入ろうとしていた。
「・・・通して。」
「ならん」
「・・・通してってば!!」
「ならない!それではまた死刑に・・・!!」
「じゃあ、殺せば?」
「なっっ・・・」
戸惑う兵士をすり抜け、集落に入っていく。
「ハーフエルフめ、性懲りもなくまた・・・!」
「アーチェ!?どうして・・・!!」
村の人は変わっていなかった。容姿も、建物も、考え方も、何一つ。それはアーチェに憤りを感じさせた。
「今度こそ、死刑だ!!」
「待って!アーチェの・・・彼女の気持ちも、聞いてあげて!」
「そうじゃな・・・」
「村長・・・!」
「ねえ、ここは何で変わってないの?外は、世界は変わっちゃったよ!ダオスを倒してから、何十年もたたないうちに、すっかりね。・・・ハーフエルフは人間じゃないってさ。当たり前だよね。
見た目も魔術とか、かなりエルフよりだもんね。」
「だからなんだ!ハーフエルフは人間との混血児ということに変わりはない。あのおぞましい、好戦的な、愚かな人間の!」
「そのハーフエルフを作ったのは誰?他ならないあんたたちでしょ!!」
「なんだと!」
「人間じゃない、あの世界を滅ぼしたハーフエルフだ、恐ろしい、でていけ。
エルフじゃない、世界を支えるユグドラシルを枯れさせる兵器を作ったハーフエルフだ、愚かだ、でていけ。
じゃああたしたちハーフエルフはどこで暮らしたらいいの?
みんな勝手だよ。ハーフエルフを生んでおいて、結局殺すの?
あたしは、同じだよ!エルフと、人間と、同じ!生きてるの!どう違うの?人間も、エルフも、愚かに変わりはないじゃない!」
「なっっ・・!エルフを侮辱するか!」
エルフは怒り、弓を構えようとしたが、村長に止められ唇を噛んだ。
「そうね・・私たちは愚かだったのよ。」
「ルーチェ!」
ルーチェはアーチェに近づき」、しっかりと抱きしめた。
「村長、私は家族のために、この子のために家庭を捨ててきたんです。でもこの子は苦しんでる!家族が居なくて苦しんでるの!この子の為に、一緒に居させてください。お願いします。」
「お母さん・・・」
「いいお母さんを持ったね。アーチェ。」
「村長、さん?」
「許してくれ、アーチェ、ルーチェ。そして人間と共に生きる事を望んでいた同志達よ。皆を引き裂いたのはこの私。
人間に失望し、魔術の知識を独占し、世界滅亡を回避させる為に。しかし、かわりにおまえたちの、何よりも尊いものを奪ってしまった。
すべてやり直しだ。もう一度考えてみよう。人間と手をとって歩ける世の中を。」
の中に歓声が起こった歓声は響きを増し、いつまでも絶える事がなかった。
「何をしているの?」
「空を、見てた。・・・あたしね、クレスたちと会ってくるよ。」
「そう・・もうそんな時期なのね。」
「約束したからね、あいつと・・・チェスターと。」
「その子がお目当てなの?」
「えっっ!ち、ちっがうよ!断じてないよ!テセアラとシルヴァラントに誓って!」
「アーチェ、女の子は素直が一番だと思うけど?」
「う・・・・。じゃあテセアラだけにしとくよ;」
いってきます!!
アーチェはスター・ブルームにまたがって飛び出した。
目指すはトーティス。今再建しているであろう、クレスとチェスターの故郷。
目指しながら考えた。よ!ってあいさつして、バカ面って言ってそれから・・・
陽だまりが暖かい。
きっと逢える。確信の予感がする。
あとがき
初めてテイルズ小説を書きました~かなり長くなってしまいました(汗)
これはドラマCDに感化されて作ってるので、ゲームで使われていたセリフが若干違ったりします。
そこらへんは大きな眼で見てやってください・・・。